ひとやすみ・こころしらず
└八
この出来事を、薬売りさんはどう思っただろうか。
私が感情移入しすぎる事、それは言われたけど…
美津さんと朔さんの事は、どう思ったんだろう?
"私がこの世を去るときは、一緒に来て欲しい"
「あかねちゃん…」
きっと私も、無邪気なあの子と同じように願うだろう。
自分の世界の終わりに、きっと、薬売りさんもそうであればいいと願う。
なんて恐ろしい事を願うのだと、自分でも背筋が寒くなる。
お父さんも、私がこんな風に考えてると知ったら、がっかりするかも知れない。
でも…
桜の波に揺蕩う美津さんを見たとき。
もちろん驚きはしたけれど、正直ホッとしたのだ。
あぁ、これで美津さんと朔さんの願いが叶った。
二人は一緒にこの世界の終わりを迎えたんだ、って。
羨ましくさえ思った。
目を瞑る瞬間に、私の目に映るのは、薬売りさんであってほしい。
そして、その先の暗闇を彼と一緒に歩きたい。
「あー…もう…っ」
薬売りさんは、いろんな事象が重なって起きた事だと言っていたけれど。
やっぱり私は、あの夜に鬼になってしまったのだろうか。
恐ろしい事だと思えば思うほど、その願いは切実になる。
「…ダメだ、なんか考えすぎてる」
薬売りさんに注意されたばっかりだった。
物事に心を持って行かれすぎてる。
美津さん達との事に限らず、私は感情移入しすぎだ。
(持ってかれない、持ってかれない…)
心の中で呪文のように繰り返す。
ギュッと目を瞑ると、夜風がスウッと胸元を吹き抜けていった。
「…ん?」
胸元を…??
ちょっとした違和感に、そっと瞼を開ける。
そしてちょっとスカスカしてるような胸元を見下ろした。
「!!!」
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