ひとやすみ・こころしらず
└三
あの時…
ふと、気付いてしまったのだ。
いま、横たわっているのが自分だったら。
結が自分の骸に縋って泣いているのだったら。
はたまた逆だったら…
冷たくなった結の髪を撫で、もう答えることのない彼女との会話をしているのが自分だったら。
『………っ』
ひゅっと喉がおかしな音を立てた。
息が止まりそうな感覚に、ぞわっと身が粟立つ。
結を誰にも奪われる訳にはいかない。
それは結本人にも伝えた。
それを聞ける聞けないは別として、彼女も言葉の意味を理解していたと思う。
でも、本当は自分自身が理解していなかったのかも知れない。
"結を失う恐怖と、結を一人にする恐怖"
悲しいとか、悔しいとかそんな感情ではない。
ただ、無限に広がる、得体の知れない恐怖。
この世の果てにも似た、暗く冷たい恐怖。
『…だから…っ』
ざっと衣擦れの音が暗い部屋に響いた。
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