ふたりぼっち | ナノ




よっつめ
   └二十七




『それに結はそういうものの影響を受けやすい』

「そ、そうですか…?」

『…何より証拠にすぐに心を寄り添わせてしまう』

「う……」



色々な物事に心を寄せることは良いことだ。

相手の気持ちを考えられる、相手の痛みを想像できる。


それ自体は素晴らしい。

感受性が豊である事は、人間性にも大きく関係してくると言ってもいいだろう。



しかし、それが結の事となれば話が別だ。


モノノ怪はそこにつけ入るかもしれない。

彼女自身も、そして命も。


奪って離さないかもしれない。




『…持って行かれるわけにはいかないんですよ』

「え?」

『…………』




きっとそれは人も同じで。


結が誰かの心に寄り添って、そしてそのままになってしまったら?

つけ入られるのだけが心配なのではない。


この手が、この目が、この唇が。

自分以外の何者かを頼るなど、想像もしたくない。



薬売りはほぼ無意識に、膝の上で組まれていた結の手を取った。




「く、薬売りさん?」

『…きっとずっと同じ事を何度も何度も忠告し続けるんでしょうね』

「………」

『………』



きゅっきゅっと結の手を弄ぶ薬売り。

結は戸惑いながらも、自分の安易な行動が彼にどんなに心配をさせるのか…


それだけは改めて理解したのだった。



『もうね、頭では理解してるんですよ』

「へ?」

『結の性分ですからね、四六時中叱りつけたところで容易には直らない』

「な、直しますよ…!」

『…できますか?』

「う…努力します!」



結は真剣に答えたはずなのに、薬売りはフッと笑い出す。

そして空いている手を不意に伸ばすと、むぎゅっと結の頬を摘んだ。



「いひゃっ」

『…私情もふんだんに含まれてるんですがね』

「ふぇ!?」

『まぁ、期待しないでおきますよ』



いつもの様に、ピンッと指を弾かれる。

「いぃっ!」と間抜けな声を上げて、結は目に薄っすら涙を浮かべた。


薬売りはそれを見て楽しそうに目を細め。

こっそりと、結の手を握る自分の手に力をこめるのだった。



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