ひとりじょうず | ナノ




第四章
   └三



そのとき。




「いてっ!」

「うわ!何だ!?」




私の目の前で男の人たちが蹲る。





「…!薬売りさん!」



ハッとして振り返ると、小石を手にした薬売りさんが立っていた。




『…だから待てと言ったんです』



面倒そうに眉間に皺を寄せながら、私を睨む。




「う…ご、ごめんなさい…」



気まずさに俯きながらチラリと薬売りさんを見た。





「こ、この…!お前の連れか!?」

「!?」



蹲っていた一人が、額を抑えながら私の肩を掴んだ。




「は、離し……」



チリリンッ





私と男の人の間に退魔の剣の鈴が揺れた。





『…その手を離せ』

「な、何だこれ…こんな偽者の剣!」



男の人が薬売りさんに向かって拳を振り上げた。






「きゃ…っ!」




どーーーんっ





思わず瞑ってしまった目をそろりと開ける。



と、そこには砂埃を上げて横たわる男の人と、煩わしそうに手を払う薬売りさん。

そして残りの男の人達を、鼻に皺を寄せながら睨みつけた。




「ひ…!!に、逃げるぞ!」



柄の悪い男の人は、薬売りさんの腕っ節に怯んだのか睨みに怯えたのか…

倒れこむ男の人を抱えると転がるように逃げていった。





『…ふん』



そういえば…薬売りさん、前にそこそこ大きな弥勒くんを片手で投げてたっけ…。



(つ、強いの…かな??)




失礼ながら、とてもじゃないけど喧嘩方面に腕に覚えがあるようには…





ぺちんっ


「痛っ」

『今の結は物凄く失礼な顔をしています』

「う…」



ぺちんっ




おでこを抑えながら、視線を泳がせているともう一発弾かれる。




「ご、ごめんなさ…」

「ありがとうございますっ!!」

「!?」



と、私の隣をサッと何かが横切る。




「え…っ」



さっきまで男の人達に絡まれていた女の人が、涙ながらに薬売りさんに抱きついた。





「怖かった…!あなたが来て下さらなければどうなっていたか…!」

『…いえいえ、災難でしたね』



薬売りさんが満更でもなさそうに、にこりと微笑んだ。





「………」




どちらかというと…御礼は私に言われるべきじゃない?




(なぁんて…そんなのどうでもいいんだけどさ…)




きっとこの胸のざわめきは、そんなのが原因なんかじゃなくって。






(あんなに微笑まなくても、いいんじゃない?)




目の前で笑いながら会話をしている二人。

その会話はすでに私の耳には入ってこない。





「御礼をさせてください、この先にいい御茶屋があるんです」

『それはそれは…』



二人が大通りに出ようとする時、不意に薬売りさんが振り返った。




「ん…?」



口をパクパクさせて、指をさしている。





(お・う・ぎ・や・に…?も・ど・って・な・さ・いーーー?)




薬売りさんは念を押すように眉をピクリと動かすと、彼女と共に雑踏に消えていった。





「な、何よそれ!」




私は憤慨しながら、足元の小石を蹴飛ばした。






にゃーん!



「あ、ごめん…」



小石の飛んだ先にいた野良猫が、飛び跳ねて逃げていく。




「拾い猫の扱いなんて…そんなものか…」



諦めの呟きをもらすと、私は大通りに向かった。



4/24

[*前] [次#]

[目次]
[しおりを挟む]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -