第三章
└一
― 第三章・小話 ―
「…うーーーーん」
さて、どうしたものか。
今、私の目の前には二組のお布団。
いつもの衝立は窓辺に。
「…うぅん…」
――小一時間前。
「結!薬売りと同じ部屋なんてやめとけよ!いつ寝首をかかれるかわかったもんじゃないぞ!」
弥勒くんの言葉に薬売りさんの眉がぴくりと動く。
「み、弥勒くん、薬売りさんがそんな事するわけ無いじゃない!」
「だって!あんなに意地悪されてるのに!」
「い、いつもの事だよ!大丈夫!」
私は精一杯、薬売りさんをかばったつもりだったけれど、何故か薬売りさんに睨みつけられてしまった。
『…とにかく…烏はさっさと』
「あ、てめぇ!」
薬売りさんは、弥勒くんの着物の襟首をむんずと掴むと
『巣に帰れ』
「あーっ!」
そのままポイッと窓の外に弥勒くんを投げた。
「く、薬売りさん!?」
(あ、あんなに背の高い弥勒くんを片手で…!?)
「カーーーァッ!!」
バサッと言う音と共に翼を広げた弥勒くんが、怒ったように鳴きながら窓辺にとまった。
「うわぁ…」
一瞬にして変わるその姿は、本当にすごくて、私はついつい見とれてしまう。
ぺちんっ
「いたっ」
『…何を感心してるんですか』
薬売りさんは私のおでこを叩くと、呆れたように溜め息を吐いた。
そしておもむろにいつもの衝立を手に取ると、窓を塞ぐようにする。
「カーッ」
『朝になったらどけてやる』
「カァカァッ!」
衝立の向こうで激しく羽ばたく音がしている。
「く、薬売りさん、弥勒くん怒ってるんじゃ…」
『だから何です』
「それに一人だけ外って言うのも……あっ」
口籠もる私を覗き込むように、薬売りさんはスッと顔を近づけた。
『…いつも通り結と二人。何がそんなに不満なんです?』
頬が熱くなるのが自分でもわかる。
でも、自覚してしまった以上…
(は、恥ずかしい…っ!)
恥ずかしさに居たたまれなくて、でも目を逸らす事も出来なくて、私はただ黙って薬売りさんを見ていた。
『…文句、ないですね?』
私は逆らえそうにもない薬売りさんの瞳に、小さく頷いた。
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