ひとりじょうず | ナノ




第三章
   └十五



― 終幕 ―


「ね、ね、結ちゃん」

「あ、絹江さん」



庄造さんに台所を借りて追加のおにぎりを作っていると、絹江さんがひょこっと顔を出した。




「弥勒く…あ、昨日の行き倒れの男の子。すっかり元気になってました!ありがとうございます」

「そう、それはよかったわね!それより…」



にこっと笑った後、絹江さんは神妙に眉を顰める。




「…薬売りさん、昨日はどうだった?」

「あ…え、えーと…」




私はしどろもどろになってしまうものの、絹江さんの獲物を狙うような視線から逃れられない。




「あの、心配…はしていてくれていたような…」

「え!?」

「あ、いや、私の都合の良い解釈かも知れないです!」





でも…

今朝の薬売りさんの様子を見ていると、都合の良い妄想ではないような気がしないでもない。





「ふぅ…ん?」



絹江さんは何か考えるような表情を見せた後に、再びにこっと笑った。




「じゃあ別の部屋を用意しなくても、いいね?」

「あ、はい。ありがとうございます」



満足したように頷くと、絹江さんは

「本当に素直じゃないんだからねぇ…」

そう呟きながらぱたぱたと出て行った。






(…どうしたんだろう…??)



薬売りさんと何かあったのかな?

というより…





「き、きっとバレてるんだろうな…」




私が薬売りさんに…

薬売りさんに特別な感情を持っているって。





「う、わ…恥ずかしい…!」



つい最近になって自覚したばかりなのに、もう絹江さんにはバレているとか…

私ってそんなにわかりやすいのだろうか。







(でもなぁ…)




『拾ったんですよ』





「はぁぁぁ…」




間違っていないだけに、どうしようもない。



自覚した途端に失恋だなんて…

自分の間の悪さに、涙が出そうだ。





(やっぱり部屋を別にしてもらったほうがいいのかな…)




それに…




「…………」



それに、本当はいまだに気になってる。





「…ずいぶんたくさん食べるんだなぁ」

「そうなんです………え!!」




急に声をかけられて顔を上げると、庄造さんが不思議そうな顔をして覗き込んでいる。

庄造さんの視線を追うと、私の手元にはおにぎりがてんこもりになっていた。




「あぁ!ご、ごめんなさい、ぼーっとしてて…!」




慌てて頭を下げる私を、庄造さんは豪快に笑い飛ばした。





「はっはっは!いいんだよ!好きなだけ握んな!」

「あ、あはは…」

「それより結ちゃん、お客さんだよ」

「え…?」



庄造さんが指差すほうを振り返る。




「あ…加世さん…」



そこには笑いながら手を振る加世さんがいた。



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