ひとりじょうず | ナノ




最終章
   └二十九



『……いつまで』

「あ、いぃぃっ!!」


ぐきっ


『背中を向けたままでいるつもりですかね』



いい加減、我慢ならんと言わんばかりに薬売りさんが私の首を強引に後ろに向けた。




「ちょ、ま、薬売りさ…!首痛い…!!!」

『そりゃそうでしょうね、このまま更に力を入れれば結の顔は体と真逆の方向に向くでしょうから』

「ひぃ…っ!!」

『…そんなに痛いなら体ごとこちらに向けばいいでしょうが』


(う……確かに…)



強引に向かされて、否応なしに薬売りさんの冷ややかな視線が刺さる。

私は観念して彼と向き合う事にした。




「わ、わかりまし……いだだだ!」

『……逆ですよ、回転の向きが』

「あ、あぁ…こっちでしたね…」



な、なんという失態。

観念したとは言え、やっぱり相当動揺しているらしい。


改めて首を追いかけるように、体を回転させた。

とは言え、俯けた顔を上げることができない…。




「ねぇ、ビャク。結ってもしかしてばかなの?」

「こら!ベニ!!しーっ!!!」


(ちょ………)




白夜とベニちゃんの内緒話は丸聞こえで。

私は更に顔を俯けてしまった。


でも、次に聞こえてきた言葉に私は思わず再び振り返る。




「さ、お邪魔虫はここらで退散。ベニ、行くよ」

「うん!」

「え…」



白夜は颯爽とベニちゃんに飛び乗った。

そして私を見て笑みを浮かべる。



「じゃあね、結。君が望めばいつでも君の元に飛んでいくよ」

「白夜……」

「さっき言った言葉は本心だから。これからもどこにいても、結の心のそばにいる」



綺麗な白銀の髪がふわりと揺れた。



「君が会いたいと願えば、僕たちはいつでも君のところへ…例えば目つきの悪い青い着物の男に虐められた時とかね」

「ぷ…っ」

「おれ、いつでも結にあいにくるぞー!」




嬉しそうに前足をバタつかせるベニちゃん。

背中に乗った白夜が体勢を崩してベニちゃんを叱りつけた。


そして彼は改めて向き直ると晴れやかな笑顔を浮かべる。




「薬売り、結のこと虐めないでよね」

『…………』

「泣かせたら攫いに来るよ」



薬売りさんは何も言わずに、憮然としながら白夜を見つめていた。




「じゃあ、またね結!」

「あ…ありがとう!白夜!本当に…本当にありがとう!」

「はは!聞き飽きたよ!」



白夜とベニちゃんの体がふわりと朝の風に乗る。




「――結、君の世界が美しいものであることを祈ってるよ」




父の刀を高々と掲げて白夜が笑った。

そして、そのまま白と紅の影は朝日に解けるように消えていく。


白夜の胸元では、私が渡したお守りが揺れていた。




「…ありがとう…っ」



もう姿の見えなくなった空に向かって、私はそっと手を振る。

―きっと、彼等に届くと信じて。




『……そろそろいいですか?』


ぐぎっ


「い……っ!!!」


と、三秒後には引き戻されるように再び首を回されたのだった。



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