ひとりじょうず | ナノ




第二章
   └五



扇屋に戻ると、まだ薬売りさんの姿は無かった。



「今日も薬売りさん遅いのかな?」




チリン






私は窓辺で天秤さんとぼんやりと月を見ていた。




淡い半月が浮かぶ夜空。


さっきから美園ちゃんのはにかんだ笑顔と、心太くんの赤くなった笑顔を何度も思い浮かべていた。





「二人とも同じように幸せそうな笑顔なのに、どうして行き先は違うんだろうね…」






美園ちゃんは義國さんが好きで、心太くんは美園ちゃんが好きで。

心太くんは美園ちゃんを見てて、美園ちゃんは心太くんが見えない。




美園ちゃんの声は聞こえても、心太くんの声は届かない…





「ああぁぁ、もう!なんか上手くいかない…」





リン…





項垂れる私を真似るように、天秤さんは弱々しく鈴を鳴らした。

私は天秤さんの様子を見て、クスッと笑いながら小さく溜め息。





「…恋って難しいんだね…何だか切ないね…」

『…何の話です』

「っきゃああああ!!」





急に耳元に響く低い声に私は飛び上がった。




『騒がしい…大きな声を出すんじゃありませんよ』



いつの間にか背後に立っていた薬売りさんが、迷惑そうに顔をしかめた。





「っく、薬売りさん!驚かさないで下さいよ!」

『別に驚かして無いですよ』

「あー…びっくりした……あ、お帰りなさい、薬売りさん」




私の言葉に薬売りさんは、少しだけ目を細める。





『…ただいま』



(あ…笑った…?)







ドキッ




あれ?




ドキンッドキンッ





あれれれ?





何だろう、心臓が跳ねる…

いつもの苦しくてつらい感じの脈と違う。



あれ、何か変な感じ…






『…結?』

「っっっ!!」




薬売りさんが、くいっと私の顎を持ち上げた。




「くくくく薬売りさ…!」

『…何です?』




うろたえる私を見て、ニタリと唇が意地悪に歪む。




(い、いつもみたいにからかってるだけだよ…!)





見下ろすような視線が明らかに面白がってる。




(なのに…なのに…)




ドキンッドキンッ




(何なの、この心臓はーーーー!?)





『何を考え込んでたんですか?』

「ふぇっ!?」



変な声を出した私を見て、薬売りさんは訝しげに眉を寄せた。




『恋とか何とか…』

「あぁぁあれはですね…」

『………………』

「いぃっ…!」



薬売りさんは、歯切れの悪い私の返事に苛ついたのか、顎を持つ手にぐっと力を込めた。


そしてもう片方の手でおもむろに私の手首をつかみ、自分の顔のほうに寄せた。



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