ひとりじょうず | ナノ




最終章
   └二十一



―― 夜になり、私は部屋で一人針を動かしていた。

最後の一針を終えると、玉止めした糸を鋏でちょんっと切る。



「……できた!」


はぁっと息を吐いて目の前に並べた六つのお守りを眺めた。



「これが弥勒くんので…これがやたさん…あれ?やたさんは神様なのにお守りとかいるのかな?」



独り言を言いながら首を傾げていると、スッと襖が開いた。




『…まだ起きていたんですか?』

「薬売りさん…」



薬売りさんはまだ雫の落ちる髪を、手拭で拭きながら部屋に入ってきた。

そして器用に髪をまとめると、手招きする。



「??」

『包帯、代えますよ』

「あ…」



ちょんちょんっと自分の首を指差しながら薬売りさんが言う。

素直に彼に近づいて座ると、薬売りさんは満足そうにフッと笑った。


かちゃかちゃと薬箱を探ると、小さな壷と新しい綺麗な包帯を用意した。




『………少し、沁みますよ』

「…っはい…」



向かい合わせに座る私に、グッと薬売りさんが顔を寄せる。

正確には…視線は少しずれて首元に。


ふわっと漂う湯の香りに、思わずクラクラしてしまいそうだった。




「……いぃっ」



でも、すぐに首に走る痛みに、私は顔を歪めた。




『…我慢しなさい』

「うぅ…っ」

『全く……前にも言ったでしょう』



薬売りさんは話を続けながら、指を首に滑らせて軟膏のようなものを塗っていく。




『…私以外に傷を付けられるなんて…』

「………」



チラッと彼の方を盗み見れば。

心底気に食わないと言った様に、彼は口元をへの字に歪めていた。




「…ごめんなさい」

『……………』

「でも…薬売りさんのお薬は、とってもよく効くから。薬売りさんが治してくれるでしょう…?」



するすると肌の上を滑る包帯がピタリと止まった。



「薬売りさん…?」



不思議に思って薬売りさんを見ると、薬売りさんは目を丸く見開いて私を見ていた。



『…………』



薬売りさんは無言のまま、片手を軽く挙げる。

そして…




ぺちんっ


「痛っ!」



そのまま私のおでこをいつものように叩いたのだった。




「な、何するんですか!」

『…………』



薬売りさんは何も言わず、パパッと包帯を巻き終えた。

そしてそのままクルッと背を向けると、



『…布団、敷きますよ。もう寝ます』



そう言ってさっさと薬箱を仕舞った。




「…………ふふっ」

『…何です?さっさと布団を敷きなさい』

「はぁい」

『返事は短く』




薬売りさんはいつもの無表情でテキパキと布団の用意をする。

私も込み上げる笑いをどうにか抑えながら、彼に続いて布団を敷いた。




(…薬売りさんってば…)



…だって。

たぶん私の見間違いなんかじゃない。


薬売りさんの耳と項が、いつもよりちょっと赤く染まっていた。



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