ひとりじょうず | ナノ




最終章
   └七



扇屋に戻って少し絹江さんのお手伝いをした後。

私は部屋で、残りのお守り作りをしていた。


茜色に濃紺が混じりだし、いつの間にか部屋の中も薄暗くなっている。

針を置いて、私は行燈に手を伸ばした。





『……結…』

「――えっ」



急に名前を呼ばれて、思わず蝋燭の火を落としそうになる。




(う、嘘…)


段々と早くなる鼓動を抑えるように、ゆっくりと息を吐き出す。

そしてそっと布団に横たわる薬売りさんを覗き込んだ。



どきんっ


どきんっ



空耳…だったのかもしれない。

でも確かに、薬売りさんが私の名前を…




「!!」



すっと何かが私の視界を横切った。

そしてすぐに、それは私の頬を柔らかく滑っていく。




「―薬売りさん!!」



布団の上には、細く目を開ける薬売りさんがいて。

彼は私を見てフッと笑う。




『……何でいきなり泣き顔なんです』

「…っく…だ、だって…!!」



薬売りさんは細くて長い指で、私の頬に流れる涙を拭った。

呆れたように笑いながら、でも何だか眩しいものを見るように。




「よかっ…目が覚めてよかったです…」

『………長らく…会ってなかったような気がします』



そう言って彼はもう一方の手を添えて私の頬を包んだ。




『結…もっと近くで…』

「あ……」


ぐいっと引かれて、目の前には薬売りさんの目があって…




「く、薬売りさん……」

『…………』



ぺちんっ


「いたっ!」



甘い雰囲気も、ちょっと待ってください鼻水が…なんて心配もどこへやら。

薬売りさんはいつものように私のおでこを叩くと、フンッと鼻を鳴らした。




『心配かけた罰です』

「は、はい……いったぁあ!!!」

『迎えに行かなきゃ帰って来ないとか何様ですか』

「薬売りさ…!爪!爪!!!」



ぎりぎりと顎を掴まれて、もう嬉し涙なのか何なのか…

頭は混乱しているけれど、心の底から嬉しかった。



7/35

[*前] [次#]

[目次]
[しおりを挟む]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -