第七章
└六
青かった空は段々と橙色に染まり始めている。
私は今日あった出来事を絹江さんに簡単に話すと、弥勒くんと別れて部屋へと向かった。
襖を開けるとそこには青い影。
「あ…薬売りさん!」
『………おかえりなさい』
いつもより早い帰りの薬売りさんが煙管を吹かしながら窓辺に凭れていた。
「た、ただいま帰りました…早かったんですね」
『あぁ…今日のは簡単なモノノ怪でしたから…』
そう言いながら薬売りさんはコツンと煙管を叩く。
そして私とは目を合わせないままゆっくりと立ち上がった。
『…湯をもらってきますから。先に夕飯を頂いてなさい』
「あ……」
薬売りさんは手拭を肩に掛けると、すれ違いざまにポンッと私の頭を撫でた。
「―――!!あ、あの!!」
『!?』
私は咄嗟に薬売りさんの腕にしがみ付いていた。
薬売りさんが目を見開いて私を見る。
『…どうしたんです』
「あ、あの…話があって…」
『それなら風呂の後で…』
「駄目なんです!ちゃんと…ちゃんと今聞いて!!」
するりと抜けそうになる薬売りさんの腕を、更にギュッと掴んだ。
思わず飛び出した自分の声の大きさに、自分でびっくりしてしまう。
薬売りさんは一瞬びくりと肩を揺らすと、襖に掛けていた手を下ろした。
そして無言のまま私の方に向き合う。
「あ、あの…」
心臓が痛いほどに脈を打つ。
少しだけ体と声が震えてるのがわかった。
(どうしよう…怖い…)
気後れして俯いたまま、私は唇を噛む。
だめだ、今、ちゃんと言わなきゃ。
あの晩、心に刺さったままの棘は決して無視できるものじゃなくて。
ずっとずっと、私の胸を傷付け続ける。
傷口はどんどん大きくなって、きっと私にはもう耐えられない。
ちゃんと話さなきゃ。
これが悲しい合図だとしても。
自分がどう思っているか…
薬売りさんに対して、どんな感情を持っているか。
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