第七章
└五
私と目が合うと、よし乃さんはパッと笑顔を浮かべる。
「本当、結が無事で良かった…」
「よし乃さん…」
「やだ…そんな風に呼ばないでよ。昔みたいに秀ちゃんとよし乃ちゃんって、ね?秀太郎?」
「そうだよ、結。敬語なんかもやめろよ。俺たちずっと一緒だった幼馴染なんだから」
そう言って彼等は温かい笑顔を浮かべた。
"幼馴染"
その言葉に私の胸はきゅっと締め付けられる。
こんなに温かい人がいるのに、私はどうして過去を捨ててしまったんだろう。
申し訳なさと悔しさに涙が込み上げそうになる。
「そんな顔するなって!俺、結にまた会えて本当に嬉しいよ!」
「秀太郎さ…」
「あ、さっき言ったろ?」
「…しゅ、秀ちゃん…?」
「はは!懐かしいな!」
無邪気な笑顔の秀ちゃんが、その顔をよし乃ちゃんに向ける。
…と、やはり彼女は少しハッとしてから表情を崩した。
「…?」
「よし乃、お前びっくりしすぎてまだ頭が着いてきてないんだろう」
「え!そ、そんな事!」
「よし乃はしっかりしてそうで案外抜けてるからなぁ」
「もう!やめてよ!」
からかう秀ちゃんと、少しだけ頬を染めたよし乃ちゃん。
…これってもしかして、もしかしなくても…?
「あ、もしかして二人は…?」
私の言葉に二人がピタリと会話を止める。
「ちょ、待って!違うよ!だって俺は…!」
「……………っ」
慌てて否定する秀ちゃんと、これまた対照的によし乃ちゃんは俯いてしまった。
「…………?」
「あ…ほら、結は覚えて無いかも知れないけど、私達っていつもこんな風にじゃれあってたのよ」
「そうなんだ…」
「そうそう!本当いっつも一緒にいたからさ、ははは…」
何だか微妙な空気が漂い…
「あ、ほら秀太郎そろそろ日も暮れそうだし…宿に戻ろう」
よし乃ちゃんはそれを察知したのか慌てて席を立った。
それに続いて頷きながら秀ちゃんも立ち上がる。
「俺たち、明後日までこの町にいるんだ。良かったら今夜改めて再会の宴会でもしないか?」
「あ…う、うん…」
「よし!じゃあまた後で!」
秀ちゃんは笑いながら手を振っていたが、よし乃ちゃんは横を向いたままでその表情は見えなかった。
「…………幼馴染…」
二人が居なくなった席で呟くと、弥勒くんが締めのお茶を啜りながら首を傾げた。
「うーん…確かに見たことあるよ、あいつ等」
「本当?」
「あぁ…でもなんかあの女…好きになれないんだよなー」
弥勒くんは苦々しい顔で二人が出て行った方を見ている。
私はその言葉の意味がわからないまま弥勒くんの横顔を伺っていた。
「ま、いっか。良かったな!友達に会えて!」
「う、うん」
「よし、葛餅も美味かったし帰るかー」
弥勒くんが底抜けに明るい顔で笑いながらお腹をさする。
「ふふ!そうだね」
私はそんな彼を見て拍子抜けしてしまって。
笑顔を返すと二人で扇屋に向かった。
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