第五章
└二
「…新しく、出会った人ですか…?」
『……………』
困ったように視線を彷徨わせる私を、薬売りさんはじっと見つめている。
心なしか、いつもより薬売りさんの指先が冷たく感じた。
なんだか急かされてるようで、私は懸命に最近の出来事を思い出した。
「え、えと…小松屋さん…は清四郎さんだったわけだし…あとは弥生さんくらいしか…」
『本当に?他にいませんか?』
「たぶん……………あ!」
私の声に薬売りさんの眉がぴくりと動いた。
…そうだ、もう一人いる。
「あ、あの……」
『…何です、早く言いなさい』
自分の喉がごくりと鳴ったのがわかった。
そして私は意を決して薬売りさんに尋ねる。
「あの…買い物から弥生さんの家に戻ったときにいた…銀色の髪の人は、誰、ですか?」
おずおずと質問する。
今度は薬売りさんの指先が、ぴくっと動いた。
(ま…まずかった、かな…?)
ちらっと覗き見ると、薬売りさんは少しだけ唇の端を上げた。
「え……」
『結は…どう思いますか?』
「…っ!」
薄く笑う薬売りさんは、頬を指で撫でていく。
くすぐったさと気恥ずかしさが、背中を走った。
『…あれは…私であり…』
「……く、くす…」
『…私ではない…では、一体何者か』
「ひゃ…っ」
『それは…真実であり、幻…』
目を細めながら謎かけのような言葉を紡いでいく。
私は固まったように藤色の瞳を見つめていた。
きゅっと上がった薬売りさんの唇が、心なしか迫って…
(こ、心なしじゃない…)
いつの間にか壁際にじわじわと追いやられてる事に気づいた。
とん、っと自分の背中が壁に当たるのがわかる。
『…結は、どう思います?』
「…どうって…」
『………ふ』
吐息が掛かるほどの距離で、薬売りさんはくすっと笑った。
(あ…ちょ、このままじゃ…)
「………っ」
唇が今にもぶつかろうとする瞬間。
「結ちゃぁぁぁぁああん!!!」
「…っ!!!」
階下から絹江さんの声が聞こえたと同時に、階段を勢い良く駆け上る足音が近づいてきた。
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