ひとりじょうず | ナノ




第五章
   └十九



「あ、の…弥生さん?」


言葉を失っている弥生さんに、おずおずと声を掛ける。

すると彼女はハッとして、慌てて笑顔を作った。



「あ…ありがとう!なんだかしんみりしちゃったわね。そうだ…これ」



弥生さんは可愛らしい巾着袋を二つ出した。



「これ…?」

「うん、お賃金」

「え!?」



素敵な花柄のちりめん生地の巾着は、思いのほかずっしりとしている。



「な、なんか多くないですか!?」

「そう?でも花壇もあんなに綺麗になったし…あ、それに今日もこれで終わりにして?」




ちょっと…これは多すぎなんじゃないだろうか?


(って言っても…他の相場がわからないけど…)



びっくりして受け取れないでいると、弥生さんは私の手に巾着袋を無理矢理持たせた。




「受け取ってもらえないと、私が困るわ。清四郎さんにも叱られちゃう」



そして可愛らしい笑顔で少しだけ肩を竦める。





(う…か、可愛い…!)



これなら男の人は骨抜きになってしまうのも頷ける…。

清四郎さんも、きっとこんな弥生さんが可愛らしくて仕方ないのだろう。




「ありがとうございます…!」



そんな事を考えながら、恐縮しながらお賃金を頂いた。



「あ、そうだ。もし良かったら、何か買い物でもしたら?この近所にはいいお店がたくさんあるわよ」

「え、本当ですか!?」

「ふふふ、結ちゃんの好きな人にお土産…なんていいじゃない?」




弥生さんは悪戯っ子のように私を肘で小突く。

私は頬がカァッと赤くなりながらも、でれでれと笑ってしまった。




「私…贈り物をしたい人がたくさんいるんです。お賃金頂いたら、一番最初にお土産を買おうって決めてたんです」



私がそう言うと、弥生さんは嬉しそうに頷いた。




「そうと決まったら、お店覗いてらっしゃいな」

「はい…!ねぇ弥勒くんも行こう?」




私はうきうきしながら彼を誘う。

しかし弥勒くんは浮かない顔で首を横に振った。



「俺いいや!」

「え、お賃金なら、これを二人で…」

「いや、最初に言ったように俺は金は要らないよ」



弥勒くんは笑っていながらも、頑として動こうとしなかった。




「本当にいかないの…?」

「おう、この辺は大丈夫だからひとりでゆっくり行ってこいよ!」

「う、うん…わかった。弥勒くんにもお土産買ってくるからね!」



私は後ろ髪引かれながらも、笑顔で見送ってくれる二人に手を振ると商店街のほうに向かった。





―――……


「君は行かなくて良かったの?」



結が出掛けた後、弥生が弥勒に声を掛けた。

それに反応するように、弥勒はじっと弥生を見詰める。




「…何かしら?」

「………お前……」




弥勒は警戒しながら、口を開いた。




「…お前、何が目的だ?」

「……………」

「狙いは結じゃないだろう?」






ざわ…っ





縁側に腰掛ける二人の背後で、何かが動く気配。

しかし、二人はお互いを見合ったまま微動だにしない。



「ふ…ふふふっ。やっぱり君は気付いていたのね?」



弥生は首を傾げながら、楽しそうに笑った。




「…あぁ…似たようなもんだからな。俺もお前も」



弥勒は睨みつけながら、答える。



「あら…人間じゃ、無いのね。………君も」

五ノ幕に続く

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