第五章
└十七
仕事が一段落して、私と弥勒くんは縁側に並んで庄造さんのお弁当を頬張っていた。
「ところで…」
弥生さんはニコニコしながら私達を交互に見た。
「二人は恋人同士なの?」
「ぐっ…ごほっ!」
「お、おい!結!大丈夫か」
突然の質問におにぎりがのどに詰まる。
弥勒くんは背中をさすりながら、私にお茶を差し出した。
「ご、ごめんなさい…仲がいいからもしかして、と思って…」
「い、いえ、ごほっ、大丈夫です」
はぁっと息を吐きながら、私は手を振って見せた。
「えと…そういうんじゃない、です。幼馴染みたいなもので」
「そうなの?じゃあ…好きな人は他にいるんだ?」
私は隣で五つ目のおにぎりに夢中になってる弥勒くんをチラッと見た後、小さく頷いた。
「まぁ…!」
弥生さんは無邪気に顔色を明るくした。
「結ちゃんが好きになるなんて…どんな殿方なのかしら!」
「ど、どんな…うーん」
首を捻る私を、弥生さんはわくわくした瞳で見つめる。
「えっと…意地悪で…でも本当は優しくて…」
「う、うん…?」
「気に入らないことすると、容赦無いですね」
「そ、そう…」
弥生さんは少し困ったように笑った。
「あ…そう言えば…弥生さんのご主人はどんな人なんですか?」
何の気なしにした質問。
でも、弥生さんは微かに息を呑んだ。
(あ…聞いたらダメだったかな…)
しまった、と思う前に弥生さんは柔らかく笑う。
そして視線を牡丹に移すと、ゆっくりと話し始めた。
「主人と…清四郎さんと出会ったのはね、私が女郎として働いていた時なの」
「え…!」
そうだったんだ…道理で所作から立ち振る舞いから、洗練されている訳だ。
「元々はね、私は島原にいたのよ」
「島原…?」
「ここよりね、もっともっと西の方。そこにね大きな遊郭があるの」
ふと横を見ると、弥勒くんは気の無い様子で弥生さんの話を聞いていた。
そして、彼女は続ける。
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