第一章
└十
――お…さ…
(…ん…)
――お嬢…ん…
(あれ…この声…)
――お嬢さん
「…小太郎さん…?」
私はむくりと起き出すと、まだ寝ぼけたまま辺りを見渡した。
薄暗い部屋の中、小太郎さんの姿があるはずもなく…
「…あれ…夢…?」
カタン…
ふと、音がして部屋の隅に目を向けると、其処には小太郎さんが佇んでいた。
「え…なんで…」
「お嬢さん、迎えに来ましたよ」
ふわりと微笑む小太郎さん。
そして私の枕元の着物のほうに手を伸ばすと、あの簪を私に手渡した。
「……あ……」
手のひらで簪が妖しく光る。
(ど…どうし…)
頭がくらくらする。
体もふわふわと浮いているようで、力が入らない。
でも不思議と恐怖感は無く…
(…心地…いい…)
「さぁ、お嬢さん。おいでなさい」
小太郎さんの言葉のままに体が引き寄せられる。
(く…すりう…り…さ……)
彼の腕に抱かれると、そのまま私の意識は途切れた。
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