番外章(二)
└十一
「はぁ…っはぁっ」
「絹江…大丈夫か?痛むか?」
足場の悪い山道。
いくら走ってないとは言え、やっぱりしんどくてね。
「大丈夫よ…ほら、行くわよ」
汗を拭って先に行こうとすると、庄造にそれを阻まれたの。
そして庄造は、そのまま私に背を向けてしゃがみこんだ。
「乗れよ」
「は?」
「早く!おんぶしてやるから、乗れ」
「え、ちょ、いいわよ!」
「いいから!!」
もう、すごい剣幕でね。
私は庄造に押し切られて、渋々その大きな背中に体を預けたの。
「…何よ、格好つけちゃって…」
「うん?重くないぞ?」
「んな事言ってるんじゃないわよ!」
庄造のカラッとした笑い声が山に木霊した。
「…いつか大きくなったら、こうして母ちゃんを背負うのが夢だったんだ」
「…そう…孝行息子ね」
「だろ?」
少しだけ胸を締め付けられるような感じがしたわ。
庄造の表情はもちろん私には見えなかったけど…
また泣き笑いしてるような気がしてた。
「…これからはいつでも母ちゃんを背負えるんだな」
「そ、そうよ!私はあんたの母ちゃんになったんだからね!」
「ははは!そうだな」
私は少しだけ庄造に掴まる腕に力を込めた。
「…お前のために生きるよ」
「え?」
「怪我の責任とかだけじゃなくて…絹江がそう言ったんだろ?これからは絹江のために生きて、絹江だけを想って、絹江のために人生を送るんだ」
「…………」
「いい考えだろ?」
木々の間を抜けていく風が、やけに心地よく感じたっけ…
でも、私は涙を堪えてしがみつくのが精一杯でね。
「あぁ、でもそしたらやっぱりお前の息子にはなれないなぁ」
「な…何でよ…」
庄造は少し体を揺さぶって体勢を整えて…
「…母ちゃんとは…夫婦になれないだろ」
消え入りそうな声で呟いた。
「…………」
「…何か言えよ…」
ちょっと覗き見た庄造の耳は真っ赤でね。
もう胸が一杯で苦しくて…こう返すのが精一杯だった。
「…やっぱり、変な奴…!」
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