番外章(二)
└二
そうだなぁ…
私が結ちゃんと同じくらいの歳だったかしら?
「絹ちゃん!お客様がお見えだよ!」
「あ、はーい!」
私はね、今と同じようにある宿屋で住み込みで働いてたのよ。
ちょっとした名所でさ。
物見遊山の客の集まる町でね、それこそ宿屋も扇屋の倍以上の大きさだったわ。
「へぇ…公家のお忍び旅行…」
ある日、物見には季節外れの客が入ったの。
どこかの公家の息子ご一行様。
それはそれは仰々しいご一行でねぇ。
「これ、絹ちゃん!頭下げなさい!」
「はぁい、女将さん」
「はい、は短く!」
まだまだ客商売の見習い中の見習いだった私には、何だか珍しい人種に見えてね。
じぃっと凝視してしまって女将さんに叱られたっけ。
「ふむ…なかなか良い設えじゃの」
公家の坊ちゃんを部屋に通すと、扇子で口元を隠しながらきょろきょろと周りを見渡してさ。
でもね。
「………」
何か変なのよ。
まぁ、お忍びの旅行とは言えね。
「…女将さん、何で男の人ばっかりなの?」
「これ!」
女将さんに小声で尋ねると、どんって肘で突かれてさ。
「京宮(きょうのみや)様、何かございましたら私かこの仲居の絹江にお声をお掛け下さい」
にこにこと笑顔を浮かべてお辞儀する女将さんに倣って、私も頭を下げたの。
「いや、結構じゃ」
「え?」
思わず顔を上げると、その京宮って坊ちゃんは嫌ぁな笑顔を浮かべてね。
「私の身の周りはこの者たちに任せておる。食事も風呂の世話も…夜伽も、な」
そう言って傍にいた数人の内の一人の男の子を引き寄せたの。
(う、げぇ…)
見渡してみれば、お供についてきた人達はみーんな美少年!
そこらの娘と比べても、綺麗な顔立ち。
その人達を侍らせて、蛇のような厭らしい目で笑う坊ちゃんがまた気持ち悪いったら!
横を見れば、女将さんの笑顔も引きつってた。
ただね。
(…ん?)
その中にいた料理人の一人だけが雰囲気が違ってた。
表情を変える事無く、後ろに控えて。
感情の無いような、それでいて何かを狙っているような…
そう、例えるなら虎のような目。
(…あの男…)
能天気な悪趣味坊ちゃんに喜んでついてくるような気性とは思えない。
むしろ…何か…
「もう良い、そういう事じゃ。女将も女中も下がれ」
鬱陶しそうに扇子を振りながら坊ちゃんが言って、私達は部屋を出たの。
出るときに、もう一度あの男を見たら
「!」
一瞬、目が合ったような気がした。
(…変な奴…)
…そう、それがあの人…庄造との出会いよ。
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