コナー
「巡査、巡査」
「…」
「好きです」
デトロイト市警のオフィス。太陽が真上の時間帯にも関わらず、俺の後を付いてきては好きです、やら愛しています、など歯の浮くようなことを矢継ぎ早に飛ばす男はアンドロイドのコナー。大方プログラムの異常だと思うが、この件で職場の人間から事あるごとに揶揄されるので正直いい加減にしてほしい。任務遂行がコナーの目的なら、さっさと相棒のハンクの所に行けばいいものを…。
「名字巡査」
「コナー、それはプログラムの異常だ。今度修理してもらいな。この話は終わり。ハンクももうすぐ戻ってくるだろ」
「ですが」
「俺もこれから外回りだからまた後でにしてくれ」
「…わかりました。ではまた後ほどお迎えに上がります」
「えっ」
やんわりと断ったつもりだがアンドロイドに言葉の綾は通じないみたいで。チラと別れたコナーを一瞥すると相棒の後を追っていて、前に「金魚の糞みてえな奴」と言われていた事を思い出し口角が上がった。
▽
「巡査、こんばんは」
「やあコナー」
コナーは会いたかったですと、双眸を伏せた。反応に困ってヘタクソだと自覚しつつも歪んだ笑顔を返す。息を吐いた。それで?コナーは何故俺が好きなんだと問えば、わからないとの事。
「警部補がそう言っていました」
「ハンクが?」
「はい。巡査を見ているとブルーブラッドの流れが早くなる、側に居たいと感じるのは何故でしょうか…と」
「…あのな、コナー。それは今朝も言った通りプログラムの異常だよ、俺の事が好きなんじゃない」
「それは違う!」
普段滅多に声を荒げないコナーが突然感情的に動くので、反射的にビクリと肩を震わせてしまう。人の行動に敏感なのはアンドロイド特有のもので、慌てた様子のコナーは直ぐに謝罪した。
「…すみません、取り乱すつもりは」
「いや、いいよ」
相手のセリフを反芻した。コナーはいつだってストレートに伝えてくる。職場で紡がれる愛の告白とは違って、面と向かって言われるとたとえ相手が機械だろうと悪い気はしないし寧ろ照れた。別にアンドロイドだからと差別する気は毛頭無いが、所詮はプログラムだと思っている。知的好奇心の塊であるコナーは、恋心ではなくて何かしら俺に対して知りたいことでもあるんだろう。特に隠し事がある訳ではないし、目的を達成すれば興味も薄れるだろうな。ああもう、ハンク。コナーを困惑させてどうする。面倒なことになった。
「コナー」
「はい」
「俺の事が好きになってくれるのは嬉しい、でもまだ早い。まずは友達にならないか」
「いいんですか?本当に?」
「ああ、いいよ」
この感情の勘違いを時間をかけて解いていくと決めた。関係の進展にコナーはこれまでに見たことのない嬉しそうな表情で顔を上げた。ぱあっと効果音の付いた笑顔。チクショウ、可愛い。成人男性モデルの癖に。
「よろしくお願いします。友情の印に、名前と呼んでも?」
「大丈夫だけど…ああ、そうだ。職場で俺にベッタリしたり好きだとか言うなよ。この際だから言っとくけど」
「…何故ですか?」
「恥ずかしいから」