斬島
斬島は、よく体に触れてくる。それが嫌ってわけではないが、まあ、距離感が近い奴だなあとは思う。
「…?名字、どうした?」
「…ああ、いや、ちょっと考え事してただけだ。なんでもない。」
べったり。今でも俺の腰の辺りを触れている。これが毎日あるもんだから気にならないわけがない。たとえば、談話室でテレビを見ていたら突然現れて寄りかかられるし、他の奴と話していたら肩に顎を置かれてじーっと見てくるし。オフの日はベタベタされても何とも思わないが、いまは任務中だ。今回の任務は廃病院に出る亡者の捕縛であり、斬島とバディを組むことになった。そのため、斬島と行動している訳だが…。どうにもこう近いとやりにくい。
「なあ、斬島、ここから別行動にしないか?」
「なぜだ」
「いやなんでって…その方が効率がいいだろ」
「…」
無言の意思表示。嫌だと言いたいのか、触れていた彼の手は、いつの間にかカーキ色の軍服を掴んで離さない。困ったな。
「名字」
「何?」
声をかけられ、斬島の方へ視線を向ける。廃病院内は当然だが誰もおらず静かで、きりっとした彼の声がよく響く。
「……。俺が、いつも名字に触れている意味が、分かるか」
「分かるかってどういう」
ぎゅ。両手を握られる。彼は恐ろしく真剣な顔つきで、その深く青い瞳で、逃がさないと言わんばかりに体を突き通すほど鋭く俺を見つめた。