斬島






 「セックスしないと出られない部屋ァ!?」
 「そうらしい」
 「それにしてもおかしいだろ!普通そういうこと躊躇なくやろうとする?!ちょ、離れろ!」
 「でもこうしないと出られないんだろう」


 ちょちょちょ、と慌てて同僚である斬島を押しのけ距離を取る。


 昨日はしっかり自室に戻って寝たはずだ。なのになぜか見知らぬ部屋で寝ていて、さらに斬島が俺の上に覆いかぶさっているというとんでもない状況で目が覚めた。

 あたりを見渡せば、ベッドとその脇になにやら如何わしいもの達が置いてある、シンプルすぎるがそれと同時に異様な雰囲気のする部屋だった。
これは何かと問えば、斬島はズイッと「セックスしないと出られない部屋」とでかでかと書かれた1枚の紙を無言で押し付けた。

 視線を下げ自分の服を確認すると、寝巻きのボタンが上から順番に外されてほぼ半裸でおり、この馬鹿な同僚は本気でことに及ぼうとしていたことが分かる。

 「いや…でもだからってそういうことする?ドッキリかもしんねえじゃん」
 「む、そうか…しかし」
 「しかしじゃねえよ、素直に書いてあること従おうとすんじゃねえ」
 「むう」

 ベッドに座りなおし、顎に手を当てて考えるような素振りを見せる斬島。そんな同僚を横目に、大きく溜息を吐きながら服を整えた。出口と思われる扉に手をかけ本当に開かないかガチャガチャとドアノブを乱暴に回すがやはり開かない。自分のエモノで強行突破しようにも、自室に置いてあるはずなので手元には無い。

 「マジか」
 「…」

 最悪だ…と壁にズルリと凭れ掛かる。チラリと青眼の男へ目を向けると、穴が開くと言っていいほどこちらを凝視していた。かと思うと立ち上がり、名字の手を取った。手を引き、ベッドに腰を下ろす。


 「何」
 「俺は名字とするのはいいと思ってる」
 「…へァ!?」

 何を言っているんだこいつは。ついに頭のネジが飛んでしまったか。

 「な、何言ってんの斬島…」
 「だから俺は名字となら行為に及んでも」
 「分かった!皆まで言わんでいい!その手をまず離そう!」
 「名字は俺とするのが嫌なのか?」
 「嫌っていうかまず男同士っておかしくない?そのへん斬島は問題ないわけ?」
 「問題ない」
 「即答すんな。えーっと…それは…つまりお前は同性愛者ってこと?」
 「よくわからないが…俺は」


 俺は、まで言うと斬島は一瞬目を逸らし、ゆっくりと瞬きをした。またすぐに顔を上げ、真っ直ぐ名字の瞳を見た。一瞬、ほんの一瞬だが心臓がドキリと跳ねる。


 「俺は名字が好きだ」
 「…はぁ……はっ?」


 肩を押され、倒れ込むように押し倒される。一瞬何が起きたか分からず何も言えずにいると、静かに口を塞がれる。お互い寝起きで髪が乱れていたが、更に乱れた。だが、そんなことを気にする暇はなく、驚きの余り影の入った顔を見つめ返せば、彼の特徴である青眼がギラギラと光っていた。心なしか呼吸が荒いような気もする。


 「俺じゃ駄目か」
 「…お、おぉ…マジか…」
 「何方にせよ行為をしないとここからは出られない。腹を括れ」
 「えっ、ほ、本当にやるのか…」
 「返事はこの部屋を出た後に聞こう」
 「やっ、ちょっ、まっーーーー………!!!!!」








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