夏も終わりに近づいてきて外気の温度もどことなく涼しく感じてきた。
と、言ってもまだまだ残暑が残っていて暑いことには変わりはないのだが、ほんの少しだけ感じる夏の終わりの気配に山崎は肺いっぱいに空気を取り込んで隣を歩く少女を見た。

今は見回りの真っ最中。

沖田との見回りの時は毎度のようにサボるが相手が冲田でないと至って普通に職務に励むまゆこ。
相手を選んで対応するその順応性に感心しながら山崎は小さく笑みを零した。


『なに?どうかした?』


クスリと笑ったのがバレていたようだ。
キョトンとして振り返るまゆこに山崎は口元の緩みを右手で隠しながら「いや?」と返した。


「別に?なんでもないけど」

『そ?なんか笑ってたみたいな気がしたから』

「そんな事ないよ?あ、そうだ。今日見廻りの帰りに大江戸製菓店寄る?丁度帰り道だし、おやつに買って帰ろうか?」

『わーい!いいの?!』

「もちろん」


あそこのモンブラン食べたかったんだよね〜!とご機嫌に鼻歌でも歌いだしそうになるまゆこ。
ケーキ如きでこんなにも上機嫌になるとは、と思ったが、そう言えば今日は朝から機嫌が良かった気がする。
まぁ、少女の機嫌の悪い時と言う事自体があまりないのだが今日は朝から格別機嫌が良かった。

その事に山崎は何かいいことでもあったのかな?と思案しながらニコニコとご機嫌な少女の顔を覗き込んだ。


「どうしたの?やけに機嫌いいよね?」

『え?だってケーキ』

「いやいや、今日朝から機嫌いいじゃん。何かあったの?」


世間話程度に質問をすれば、何やらポンと顔を赤らめるまゆこ。
おや?と思った。
少女がこうして顔を赤らめるということはきっと土方関係のことなのだろう。
その内容を聞きたいような聞きたくないようなむずむず感に駆られた山崎は「ん?」と首を少し傾げると少女の反応を見た。


『あ、べ、別に?何もないよ?何時も通り!!そう、何時も通り!!』

「ふーん?」


何が何時も通りなのかイマイチ分からなかったが、あまりの吃り様に山崎はそれ以上聞くことはなかった。


少女がご機嫌な訳。
それは昨日の土方との出来事にあった。

"抱かせてくれ"

と言われたのだ。
そして自分はそれに応えた。
いや、答えたといっても体で応えたわけじゃない。了解したと言葉を返しただけ。
けれども、近いうちに自分は身も心も彼の物になれるのだと思ったら心ワクワク胸がドキドキした。

そんな訳で朝からスコブルご機嫌なまゆこ。
出来る事ならこの胸の内を山崎にも話して喜びを共感したいのだが内容が内容なだけに言える訳もなく、今にもニヤけてしまいそうな口元を内頬を噛み締めて耐えていたのだ。


「どんないい事があったかは知らないけど、良かったね。まゆこ」

『うん!!』


自分より随分と小さな少女が目を輝かせるようにして自分を見上げてくる。
そんな嬉しそうなまゆこに山崎は同じように笑みを浮かべるとわしゃわでゃと小さな頭を撫でてやったのだった。





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