Tiger x Lotus | ナノ

05 

理由はすごく簡単なことだ。

「おはよう」

ずっと一緒だった。
生まれたときから、高校一年の今に至るまで、ずっと。隣には蓮、それがもう当たり前になっていて。だから…

「蓮くん」

「ああ、麗。おはよう」

彼女が蓮を好きだと言うまで、特に気にすることもなかったんだ。自分の気持ちも、それが報われないと思い知らされることも、全部。

彼女は一つ年下で、近所の子で、昔から仲良くしていた。もともと病弱でよく入院したりしていたが…いや、だから、厄介だった。

「ゴホッ…」

「大丈夫?」

「うん、ちょっと…風邪気味で」

俺と蓮の間に入ってきた小さなからだ。見下ろせば、その華奢な背中には蓮の手がおかれている。

「ごめんね、大丈夫だよ」

麗は可愛い。
小さくて、明るくて、優しい。でも、だから、嫌いだ。

「ね、蓮くん。今度の土曜日映画見に行こう」

「何か見たいのがあるの?」

「うん、蓮くんと見たい」

ずっと仲良くしてきて、病弱で、そんな子に好きだなんて言われて、蓮がどうなるかなんて、目に見えていたからだ。

「いいよ、行こうか」

他人を突き放せないのはいつものことだけど、相手が親しいほど、それは酷くなる。簡単に突き放せないし、傷つけるようなことも言わない、大事に大事に、微笑みかける。
俺のいないところでそうしているなら、余計なことなど考えなくてすむのに。こう目の当たりにするのはキツイ。

「虎?」

ムカつく。

「先行く」

「え?ちょ、虎っ」

「麗、学校まで送るんだろ」

蓮が彼女の事をどう思ってるかなんて、正直どうでもいい。だって、好きだろうが好きじゃなかろうが、蓮が彼女を傷つけるようなことをするはずがないから。離れることはないとわかっているから。
二人の声を背に、いつもは蓮と二人で歩く学校までの道を進む。俺たちの通う高校と、麗の通う中学はさほど離れてはいないし、方向も対して変わらない。それでも、あの空気から一秒でも早く逃れたかった。二人のことを見たくない。それには、もうひとつ理由がある。それはすごく簡単なことで…そんなところをみていると、自分も同じだということを思い知らされるから。

おそらく蓮にとって、“虎”は一番の親友で“幼馴染”だ。何でも解り合えて、絶対に切れることのない絆がそこにはある、と。だから、蓮は俺を拒否しない。拒絶して、傷つけて、俺が離れていくのを恐れているから。それを利用しているのは紛れもなく自分なのに、自分勝手なことに自分以外がそれを都合よく思うことは許せないのだ。

「あ、虎ーおはよー」

「……」

「何、機嫌悪いの?」

あと数メートルで校門というところで、腕を引かれて我にかえった。けれど、突然の耳障りな声に加え顔を覗き込まれたことで見たくもない顔が視界に入る。

「ホテル行く?」

「…」

「ねえ、無視しないでよ」

見覚えはあるが、誰なのかはわからない。名前も知らない、同じ学校の制服を着た女子だ。もしかして…前に一度、シたことがあっただろうか。俺はそんなことも覚えていなくて…それがどれほど最低か、ちゃんと自覚はしていて、それでも他人を傷つけるのは簡単だから。

「誰」

そう、理由はすべて簡単なことなんだ。

「ちょっと!」

八つ当たり。
蓮が泣くから。その涙が意味するもは何なのか。ただの、生理的な涙なのか、苦しみや辛さからくるものなのか、解らないから。蓮を壊せない苛立ちを、他に向けている。それだけのこと。

「煩さい。喋るな」

「虎!」

「人の名前気安く呼ぶな」

そして、蓮がそれについて何も言わないから、だらだらと歪な関係が続いている。それだけのことなのだ。
蓮がやめてくれと言うのを期待している。そんなことは、あり得ないのに。だから終わらない。そんな自分なが情けなくて、惨めで、どうしていいか分からないくて…ただ好きなだけなのに。

頭から離れない。
抱く度に聞く、蓮の涙の音が。


聞きたくない音が聞こえる
(知りたい、涙の理由が)
(そこに幸せな結末がなくとも)


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