Tiger x Lotus | ナノ

04 

「蓮くんは優しいね」
「頼りになるし要領も良い」

要らない言葉、だ。

“保健室”その表札の下、僕は目の前のドアを開くのを躊躇っていた。虎を探して、ここにいると聞いたから迷わず来たものの…
ドアに触れた手が、震える。
遅刻、サボりの常習犯である彼が、ここに来るのは珍しいことではない。僕が気にしていたのはそんなことではなく、“保健室”という場所。カーテンに隠されたベッドと、虎。そこに、もう一人いるんじゃないかという、どうしようもない恐怖。

虎は、誰でも抱く。僕だけを抱くわけではないのだ。それがたまらなく嫌で、今も怖くてドアを開けられない。
だから、ガラリと勢いよく開かれたドアと、現れたその胸に言葉を無くしてしまった。同時に、彼の乱れた服と、首筋に残された赤い痕が、ぞくりと僕を余計に震わせた。

知っているのに、分かっているのに、どうしても嫌なんだ。

「蓮?」

認めたくないんだ。僕以外に触れ、僕以外を求める、虎を。
かけ違えたボタンを直してあげながら、その胸に他の誰かが抱かれることを考えて、この手で抉りたいと思ってしまう。そんな思考を邪魔するように、僕を抱き締める虎の腕。知らない匂いが僅かに香っている。香って、またずきりと、胸が痛む。
そのままキスを落とされ、痛みは増す。

いつだってそうなのだ。
僕が虎以外を見ることは許さないくせに、虎は平気で僕以外を支配する。ただ、虎と関係をもった女の子達が口を揃えて言うことがあって。それは、お互いに名前は呼ばないキスもしない、正面から抱かない、避妊具がなければ絶対にしない。そして、彼女たちを抱くときの虎は、表情ひとつ変えないで、ただ冷たく見下ろすだけ。声を出すことは許されないという。

僕を抱く時とは正反対のそれらに、救われる想いがあるのは確かだ。でも、それに優越感を覚えたことは一度もない。

「っ…」

僕を好きだと言いながら…どうして他の人を…
そんな嫉妬や醜い気持ちの方が、大きいからだ。

「虎…」

キスとキスの隙間を埋めるように、僕はその名前を呼ぶ。僕以外の人を、どんな風に抱くの?それは心も体も満たされることなの?ねえ、教えて…なんて、届かない想いを込めて。
言えない代わりに、強く抱き締めるのだ。僕から離れないで。伝わらないかわりに、強く、強く、抱き締めるのだ。

「蓮」

僕を呼ぶ虎の声が、僕を見るその目が、何故だかとても憂いを帯びていて…やっぱり胸が締め付けられて苦しくなる。

「誘うなよ」

「っちが…」

「もう、遅い」

いつだって僕は、虎に甘えていた。
好きだと言ってくれるから、怖いほど優しく抱いてくれるから、低い声を響かせて名前を呼んでくれるから…何か、勘違いをしていたような気さえして…

「蓮、好きだよ」

「と…っふ、あ…」

何も考えたくない。
このまま虎に溶かされて、
彼に溶け込んでしまえたらいいのに。

「蓮しかいらない」

僕も虎しかいらない。

「誰にも渡さない」

僕だって、虎は誰にも譲れない。

「俺だけ見て」

言われなくても虎しか見てない。それを言いたいのは僕の方なのに…思わずにはいられない。虎が好きだって、愛しているって。

行き場を無くした想いは
涙となって、虎を縛り付ける
(ねえ、もどかしくて苦しい)
(僕を抱く君の、心に触れたい)




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