Tiger x Lotus | ナノ

03 

「虎、まっ…ん、」

三泊四日の修学旅行から無事帰ってきた僕らは、既に明日から何日もバイトが続くと分かっていながら、荷物を片付けるのも、洗濯をするのも、着替えるのさえ忘れてベッドに雪崩れ込んだ。忘れているというよりは、忘れたフリをして。だってそんなことより、今は早く繋がりたくて。

「蓮」

欲情しきった虎の目に煽られて、キスをせがんだ。
二日目の夜も三日目の夜も、二人きりになることはなく、隙を見つけては唇を重ねてみたりして、気を紛らして。けれどそれは逆効果で、一度触れてしまえばもう離れたくなくなる。いつまでも熱をもった唇をもて余すしか出来ず、悶々と最終日を迎えた。

飛行機に乗って、今度は空港からバスに乗って、学校に着いたら電車に乗って、やっと家帰って来た。やっと二人きりになれた。

「ふ…ぅ、あ」

噛みつくようなキスを繰り返し、まだ触ってもいない下半身は熱く膨張していく。疼く腰をしっかり掴まれ密着した体。虎の同じように硬くなったものが太股に当たって、余計に顔が熱くなった。

「虎、くるし…」

一気に酸素を吸い込み、切れ切れな声でなんとか伝えれば、虎も余裕なさげに一旦体を離した。梅雨の明けきらない所為か、部屋を空けていた所為か、部屋は少し湿気臭い。自分も汗ばんでいて、温度の差に体が慣れずじっとりと濡れた皮膚が気持ち悪い。

虎も同じことを感じていたのか、躊躇いもなくシャツを脱ぎ捨て、インナーも剥いだ。それから僕のシャツに手をかけて、ゆっくりと脱がせてくれた。

「暑くない?」

「…暑い」

脱がせやすいよう体を起こすついでに、ベッドサイドのテーブルに置いたエアコンのリモコンに手を伸ばした。湿度が低ければもう少しマシなのにと思いながら今季初のクーラーを入れる。

「ん」

「はい」

その間にも着々と脱がされ、あっという間にスラックスも下げられてしまった。だらしなく溢れた先走りで下着にシミができてしまっている。それが恥ずかしくて、再びベッドへ体を沈めた。

「蓮」

不安だから努力して、その結果相手を不安にさせる。

「好きだよ」

「蓮、れん」

低い声が耳元で響き、熱い息を感じてなぜか泣きそうになった。虎の声も何処か震えているように聞こえたのかもしれない。何度も何度も名前を呼ぶから、確かめるように触るから、愛しくて、壊れそうになる。

「っ、ん」

胸を撫でていた手が、鳩尾を滑りゆっくりと下着に侵入してきた。想像していたよりぐちゃぐちゃになっていることに驚いたのか、虎は一瞬小さな笑みを溢した。

それから僕のものを撫で、包み込んだ。いつもよりはるかに熱い手、上下する。けれどそれがあまりにも刺激的で、すぐに達してしまいそうだと思い、厚い胸を押した。

「だ、め…虎、まっ…て、も、でそう…だから」

我慢していたものが、たったこれだけで溢れ出そう、なんて。

離れた虎の手が下着を下ろし、露になってしまったそこを隠すように抱きしめてくれた。いや、そう思った途端に視界は反転し、見えるのは虎だけになった。見下ろしている、扇情的に僕を見る虎を。虎に馬乗りになる体勢にさせられ、密着した下半身が火傷しそうに熱い。

「と、」

太股を這う虎の指が、そのままお尻へと向かう。でも僕はそれどころじゃないほどに興奮していて、それから、緊張していた。
何も出来ないでいたら、もう片方の手に唇をなぞられた。キスを促されているのだと気づき、体を倒して再びそれを重ねた。

「は、ぅ」

夢中でキスをする片隅、この体勢じゃ虎のものに触れられないと思った。けれど本当に自分のことで精一杯で。そして絡む舌と舌が離れることを許さない。熱い息を交えるだけで、どうにかなってしまいそうなほどで。
だから潤滑剤を探すために離れた手にさえ、まだ触っていてほしいと思った。

「蓮、ローショ─」

「いらな、い」

少しでも負担を減らそうとしてくれてるのはよく分かってる。ローションを使わないでしたことはないし、慣らす段階からたっぷりとそれを使うのが虎のやり方で。

「ダメ」

「大丈夫、だから…」

大丈夫なんて自信はないくせに、でも虎とのこの行為で感じる痛みや苦しさに嫌悪を抱いたことはない。どんなに苦しくても痛くても、受け止めたいと思う。

「蓮に、負担かけたくない」

「大丈夫…その気持ちだけで、充分だから」

「っ…」

口を噤んだ虎は、指を僕の口にあて「舐めて」と呟いた。言われるまま二本、指を口に含んで唾液を絡ませると、速やかにそれは僕から出ていき後孔へと宛がわれた。

「腰、上げて」

手に暖められた滑りが、ゆっくりとそこを解し始め、いつも通りの慣れない圧迫感に襲われた。上体を起こしたおかげで虎のものに触れるようになり、いまだほとんど触らせてはもらえないそれを、下着から取り出す。どくどくと脈打つ虎のものが、僕の手の中でピクリと揺れた。
それを遮るように虎の長い指が、奥へ奥へと入ってきた。僕が感じる場所に触れたり、あえて触れずに出し入れしたり、反応を楽しむように虎は指を動かした。鼻から抜けるような声は抑えきれず漏れ、けれどいつものように手や枕を口元に押し付けられる状況ではない。我慢すればするほど、自分でも情けないほどの声が出てしまう。

「あっ、ぅ…」

虎のものも硬度を増したもう入れられるだろうか。いや、これは自分で入れるべきなのだろうか。

「っ、蓮、まだ」

「も、無理…」

解しきれていないのだろうか、そんなの僕にもわからない。でも、虎のものだって苦しそうだ。
沸騰しそうな脳みそをフル回転させて、腰を浮かし自ら熱いそれを挿入部へ宛がう。動揺したのか腿を掴まれ、絡む視線に息がつまった。

「れん」

初めての体位に、彼も少しは緊張しているんだろうか。それともただ僕を心配してくれているだけか、曖昧な息遣いでこちらを見上げている。ゆっくりと腰を下ろし、入るだろうかと心配になってもう一度しっかり宛がう。

「、んっ…ぅあ」

いつものような滑りはなく、ギチギチと体の中で音がする。力を抜かなければと思うのに、どこにもやれない痛みに体が強張ってしまう。もう一度虎に腿を押され、同時に虎の顔が近づく。鼻と鼻がぶつかり、すぐに唇が重なった。
啄み、軽く歯をたて、舌が唇を割って侵入してくると、少しだけ力は抜け。虎のその意図が分かると、さらに力は抜け。けれど虎の舌を噛んでしまわないように意識して、腰を沈めていく。

これ以上無理だと思うほどに、最奥へとそれは届き、やっと根元まで収めることが出来た。

「は、ぁ…はぁ、んぅ」

じわりじわりと広がる痛みが、少しずつ甘い痺れへ形を変えていく。やっと繋がれた、滲む程度だった汗が今は顎を伝って滴り落ちている。エアコンは役目を全うできていないのだろうか。いや、そんなことまで考えは至らず、とにかく胸が一杯で虎に抱きついた。
その拍子に萎えていた僕のものが虎の腹を撫で、ビクリと揺れた。

「虎、とら…」

譫言の様に名前を繰り返し呟き、腰を浮かせる。僕が押し倒しているのに、動いているのは僕なのに、虎に包まれているみたいだ。また腰を沈め、ゆっくり律動を開始した。

暑さと興奮で朦朧とする意識の中、しなる体を支えるために、不安に浚われないように、必死に縋っていた。僕の中で、また大きくなる虎が愛しくて、やっぱり痛みと苦しさも今はこれ以上ないほど愛しい。

「れ、ん…」

「…ん?」

絶頂が近いのだろう、膨張したものが中身を吐き出さないようにと我慢しているのが感じられた。

「っ、と」

けれど、僕も同じだ。それを悟った虎が、下から突き上げた。急速且つ的確に突き上げ、今度こそただ縋りつくだけになり、出来る限り嬌声を噛み殺した。腰を掴むのとは逆の手が僕のものを扱き、追い詰められていく。

「とらっ、も…い、」

言い終わる前に、虎のお腹に自分の吐き出した精液が広がった。割れた腹筋の溝を伝い、お臍へと注がれるそれ。力の抜けた僕の中で虎も吐精し自身を抜いてコンドームをはずした。射精後の倦怠感に襲われ、そのまま虎の上に倒れ込みながらシャワーを浴びたい、眠りたい、と一気に押し寄せてきた感情に頭が追い付かない。でも、それより、まだ重なっていたい。

「ん、」

室内に響く卑猥な水音が耳を支配し、僕らは飽きるまでキスをした。
何度埋めても埋めきれないそれを、必死になって埋めていく。このまま一つになれたらいいのに、なんて。けれど僕らは二つだから、だからこそそれを願うだけの幸せを与えられたのだ。

牙を向けたくなるのは
自分の中に閉じ込めておきたいからで
代わりのキスはそれを抑える為の物で
互いの温度の高さにまた泣きそうになる


僕は溺れる。何度でも。
この深い黒の愛の中に、沈んでいくのだ。解け合っていながら。


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