Tiger x Lotus | ナノ

03 

その日はなんだか、様子がおかしかったんだ。

「っ…や、ぁ」

いや、もうここ何日間か、ずっと。

ネクタイを取り去って、シャツも脱がせて、ズボンも下着もベッドの下。僕を裸にさせておいて、虎はいつものように行為を続けない。だからと言って、早くどうにかしろというわけではない。ここまでしておいて、という意味。そんなに、変わらないか…男と男のセックスだ。つまりは、生々しく言えば、虎のモノが僕のお尻に挿入されるということ。

「蓮」

前立腺を探し当てられてしまえば耐えがたい快楽に溺れるしかない。けれど後から身体中が痛くなったり、熱が出たりすることもある。だからそれを催促するには少し抵抗があったのも事実。

「……ひ、ぁ…」

何回何秒交わしたかも分からないほどずっとキスをして、やっと空気を吸えたと思えば、今度は耳元で囁かれる。

「好きだ、蓮。蓮しかいらない」

甘い言葉を、何度も何度も。
どちらのものとも分からない、唾液の水音を混ぜて。耳朶から軟骨を舐めあげ、甘く噛み、その口はまた僕の唇に戻ってくる。見上げた虎の顔は、何とも言えない表情を浮かべていた。悲しそうで、切なそうで、苦しそうで、何かを我慢しているような…

「…と、ら?」

漏れた僕の声に、虎は目を伏せた。

虎はもう何も言わなくて、代わりに僕の体中に赤い痕を残していった。耳の下、首、鎖骨、胸、腕、手首、指、お腹、太腿。足の付け根に脹脛、足の甲にも。

全身を這う虎の舌に、僕はいちいち反応してしまっていた。ちくんと鈍い痛みを与えたあと、そこを宥めるように優しくキスを落とす。舐めて、吸って、キスをして、それを繰り返されて、僕の体は虎の印で一杯になっていた。しかも、舌と同じように体を愛撫していく手とは反対の手が、休みなく僕のそこを掴んで動いている。

「ん、ぁ……ぁ、い…」

僕は何度もイかされて、でも虎と繋がることは無くて、虎が気持ちよくなることも無かった。

くたりと四肢をベッドに投げ出して、息を整えながら天井を眺めた。虎には噛み癖がある。だから歯形を残されるのは慣れていたけど…本気で噛みついたりはしないし…キスマークも普段はまりつけない。こんなに、身体中にキスマークをつけられたことには驚くしかなかった。

「…虎?自分で、拭く…よ」

僕のお腹や腿に残った白濁のそれを、虎は丁寧に舐め取ってくれていた。恥ずかしくなって止めてもやめてはくれない。

「ね、と……」

抵抗する力なんてほとんど残っていない僕を、虎はそれを終えてから抱き締めた。

「……ごめん…」

「え?」

“ごめん”虎の口からそんな言葉が出るなんて…そう思いながら力の入らない腕をなんとか虎の背中にまわし、「ん?」と宥めるように次の言葉を待った。
密着した体、虎のはだけたシャツが汗ばんだ僕の体に纏いつく。そして…

「っ、とら…」

腿に感じる、硬く熱いそれ。彼のズボン越しでも分かるほど、それは確かに欲情していた。
どうしてだろう…挿入しないにしても、お互いのもの同士を一緒に扱くことさえしないなんて…こんなに熱を帯びているのに。
虎の背中から、脇腹を通って僕の太腿に触れるそれへと手を滑らす。そのままゆっくりと、確かめるように、ズボンの上から柔らかく撫でた。

「っ蓮…、離せ」

「でも、虎…」

“嫌”なんだろうか。

「いいから」

拒絶するように、僕に覆い被さっていた体が離れていく。

「……嫌…?」

「…は」

「っ……僕に触られるの、嫌?」

それ以上離れていかないように、背中に回したままだった片方の手に力を込める。

「…馬鹿」

切れ長の目が、また伏せられてしまった。

「あんまり、煽るな」

「え?」

虎の手が、再び僕の胸元を這う。
赤い印を数えるように辿りながら。

「蓮に触られると、抑えられなくなる」

「抑えなくて、いいのに」

あっさりと答えてくれた。きっと、可哀想になるほど、僕が情けない顔をしていたんだ。そうだったなら、相当恥ずかしい。でもそれ以上に…

「ダメ。蓮に、無理させたくない」

胸元を這っていった虎の手は、彼の下半身に触れていた僕の手を捕まえて、その口元へと運んだ。ちゅっと音をたてて指先にキスを落とした虎は、伏せていた目を、今度は僕に向けてくれた。

「こんな痕も、つけたくなかったのに」

幸いにも、制服でいる間見えるのは手の甲から先と首の上半分だけ。ほとんど見えはしないはず。それでも、申し訳なさそうに僕を見下ろす目は、後悔の色を浮かべている。

「…もしかして…」

虎は僕の気持ちを知る前も、知った後も、必ずコンドームはつけていた。それでもこの行為にリスクはある。気持ちが通じあったのだと、お互いに熱が冷めなくて何度も何度も抱き合ったのが何日か前。何度もイかされて、突かれて、結果体はだるくて動かないうえに熱まで出してしまった。

「それで…?」

僕の言いたいことを察した虎が、「そう」と頷く。真相が分かって、喜ぶ自分。ほんの数分前まで胸にあった不安が一気に消えてしまったのだ。

「虎、抱き締めて」

唐突な発言に、一瞬の間。でもすぐに虎はまた僕を抱き締めてくれた。行き場をなくした片手を先程の場所へ。今度は彼のベルトを外しファスナーを下ろす。

「だから─」

「抱き締めてて…しっかり」

意識は僕を抱く腕にだけ集中させていて、と。
ボクサーパンツも一緒に、ズボンを少しだけ下げる。見えないけれど、熱くて硬いものは早く楽になりたいと先走りを垂らして主張していた。それを優しく手で包み込めば、虎はもう観念したように…というよりもう抵抗しないで楽になりたいと言うように…強く僕を抱き締めてくれた。

「……っ…」

僕の耳元で僅かに漏れた熱い吐息に、ぞくりと背中が震える。余程我慢していたのか、虎のとのは質量を増して、もう限界だというようにピクリと跳ねた。

「っ」

「…虎?僕は大丈夫だから…」

“拒絶しないで”そう呟けば、掌に熱いものが広がった。虎のものでなければ受け入れられない。でも、虎だから…僕の手の中でイッてくれたことが嬉しい。

「虎…」

虎の優しさが嬉しくて
でもそんなの大丈夫だから、と
(食べてしまいたいから噛みついて)
(でも歯形なんてつけたくないから)



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