Tiger x Lotus | ナノ

001 


幼なじみが好きだった。

いつも明るくにこにこしていて、誰にでも同じように接して、困っている人が居れば迷わず手を差し出し、自分が苦労する結果になっても他の人間を助け、その結果誰からも好かれる。彼の周りはいつもキラキラ輝いていたし、通った後にはその光が残るほど。足元から春が芽吹くような、そんな感覚だ。

子供ながらに、俺にとっても世界にとっても特別な存在であると思っていた。

男か女か、そんなことは大した問題ではなかった。世間体を気にするなら問題視するべきだったとは思う、けれど、男である自分が同じ男を好きになったのが先だった。それが“普通”じゃないことを知り、そうか、じゃあ彼が俺に振り向くことはないのかと、実らない初恋に絶望したのはずっと前のこと。

蓮、と強く艶やかな音の響き通り、蓮は柔らかい物腰の奥に堅くしっかりとした芯を持っていた。決して目立つタイプではないはずなのにいつでも人に囲まれていたし、そんな複数の“自分以外”を同じように好いていた。聡明で美しく、触れると温かい、けれど、蓮の優しさは俺には痛すぎた。

「虎、どこ行ってたの」

「……別に」

誰にでも優しい、誰にでも同じ、そんな蓮に“特別”な一人が出来た。きっと誰か一人を一番大事にするという概念は蓮にはない。だから例えこの恋が実らなくとも救われる気持ちがある、と、俺は勝手に思っていて。だからある日突然向けられた「付き合うことになったんだ」という言葉に、酷く胸を抉られた。

幼なじみで友達、周りより少しほんの僅か、数センチだけ高い場所。それは唯一自分だけ、そんな浅はかな優越感も、一瞬で払拭してしまうような言葉だった。男だとか女だとか、普通とか普通じゃないとか、考えなければ良かった。胡座をかいてその隣を独占していたはずなのに、それは簡単に“所詮ただの友達”に成り下がってしまったのだ。

彼女が出来ても蓮は変わらなかった。
彼女以外にも同じように優しく、平等に、損得も考えず。でも人間は我が儘だから、「私にしか優しくしないで」と、人間だけが持っている知能で伝えてしまう。

「心配したんだよ」

「しなくていいから」

「、とら、」

「お前も早く家入れ」

「虎!」

蓮に彼女が出来て、登下校も休み時間も、その隣から俺の居場所はなくなった。この恋も終わりだと、終わらせようと、夜な夜な出掛けてみたりセックスを覚えてみたり、後から思えばただの反抗期だったのかもしれない、子供じみた抵抗をしていた。その度に蓮は「何かあったら」と心底心配しているという声で俺を諭した。
蓮の綺麗な手に触れられるとどうしようもなく好きだと言いたくなって、何度もその手を振り払った。

「明日、迎えに来るから」

「来なくて良い」

「待ってる」

「……」

物心つく前からずっと隣に居て、惹かれるのも恋に落ちるのも至極当然だった。好きにならない理由がない。
蓮の優しさが好きで、大嫌いで、俺にだけ向いてほしいと、彼の彼女と同じ立場で考えていて。何度も何度も、何度も、諦めようと思った。でも結局終わらせることは出来ず、蓮たちが別れるのをただただ願っていた。
蓮に触れたい、触れられたい、俺だけに笑ってほしい。頭の中で幾度となくその唇にキスをして体を犯した。蓮はそれを知らない。

俺の帰りを家の前で待ったり、毎朝迎えに来たり、微笑みながら寝癖を直したり、健気に俺なんかのことを気に掛けて、ずっと変わらず「虎」と呼んでくれる蓮を。俺は犯し続けていた。


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