Tiger x Lotus | ナノ

08 

いつからだろう。

「や、だ…め……」

痛くて苦しい、辛いだけだった筈のその行為に、 快感と快楽を得るようになったのは。

「虎…」

確かに僕は虎が好きで、好きな人と繋がれるそれに幸福を感じ、満たされると思っていた。けれど、やはり慣れない行為であることに変わりはなく、吐き気がするほどの異物感は消えない。なのに今は、その隙間にある耐えがたい感覚に気付いてしまったから。

柔らかく唇を重ね、角度を変えながら触れるだけのキスを繰り返す。啄むようにその行為を楽しんだあと、ゆっくりと唇を割って忍び込んできた舌が僕の口内を探る。丁寧に歯茎をなぞり、その奥にある僕の舌を探すのだ。
見つかってしまえば、あとはもう彼にされるがまま。僕は逃れることなど出来ないで、舌を絡ませる。

その下で、頬を触るのとは反対の手が衣擦れの音を響かせながら這っていく。

本当にゆっくりと。
シャツのボタンを器用にはずし、女の子とは違う、固い男の胸板をなぞる。滑らかさも柔らかさもない僕の胸を、虎の大きな掌と角張った長い指が。それが胸の突起を見つけて口元を緩めるのだ。

「っ、」

切れ長の目が細められ、息をのむ。
睨みではなく、微笑みだからだ。こんな顔をするのかと幼馴染みでさえ思ってしまうようなものだから。そして何度見ても心臓を鷲掴みするような、とてつもない衝撃を与えてくれる。普段表情に乏しいから、余計に…虎の変化には胸が高鳴るのだ。

そう思っている間に舌は口から耳へ、そして首筋へ。テンポよく下降していき、鎖骨で止まる。硬いそこに一瞬歯を当てたあと、またゆっくりと下へ。鎖骨を甘噛みするのは彼の癖なのだろう。それは彼の愛撫の一連の流れに含まれている。

「虎、ダメ、だって… 」

執拗に指で弄び、赤く腫れたそこを舐めあげていく。丁寧に丁寧に。僕が堪えきれず声をあげれば、それを楽しむように、上目遣いでこちらを見る。それがたまらなく官能的で、虎に触れられるだけでも反応してしまう体は、その愛撫と舐めずりで更に熱を帯び、露になる腰が疼いてくる。

その一瞬を見逃さないで、虎の手がするりと僕の下半身を撫でた。

「勃ってる」

「さわ…」

拒否する暇も与えず、その手はガチャガチャとベルトを触る。緩められていく音が耳を掠めて、羞恥に顔が熱くなるのを感じた。
同時に、薄暗い部屋の中で自分に覆い被さる彼の体温との違いに気づく。自分よりはるかに、冷たいのだ。
でもそれは、珍しいことでもなんでもない。いつでも、虎の方が体温が低いから。冷たい手が優しい手つきで、僕の理性を壊していく。先走りで濡れたそこを指の腹で撫で、包み込むように掴んだ後、胸元で止まっていた虎の舌が再び下降を始める。鳩尾をなぞり、ヘソを抉って、辿り着く。熱さに耐える、僕の一番感じる場所へ。

「っだめ、と、ら…ふぅ」

「だめ?」

頬と胸をとらえていた虎の手は、いつの間にか僕の足を掴み、開いた状態で固定したその中心へ。顔が埋められる。温度の低いざらついた舌が、そこを舐めあげ、ゆっくりと口内に収められていく。そんな光景を直視できるわけもなく、ただ熱を帯びて紅潮しているであろう顔を隠し、声が漏れないように掌に歯をたてた。

「っ」

ちゅ、じゅ…くちゃ…
そんな卑猥な音に、耳を塞ぎたくなる。しかし顔を隠すために両手は使われていて。ぎゅっと目を閉じて漏れそうになる喘ぎと嗚咽を飲み込む。

「蓮」

暑い、熱い…もう苦しいのに…なのに、虎は楽にしてくれない。いや、違う。

「前だけじゃ、イけない?」

僕の体が、もっと強い刺激を、意識の飛ぶような快感を、求めているからだ。一言で言うならば、 足りないのだ。

「ち、が…」

否定の言葉も、きっと今の彼には扇情的に写るのだろう。僕が抵抗の色を見せる度、虎は煽るなと言うのだから。そして幾度となく、僕はもう口を開かないと頑なに思ってきたのに…
そんな僕の中の葛藤を邪魔するように、虎の手が内腿をなぞって、後孔へと滑った。

びくりと震えれば、その手は僕から離れ、少しの沈黙の後同じ場所に戻された。再びそこを触られ、しかも今度はヒヤリと滑った感覚に、先程より肩が大きく揺れてしまった。しかしその手は気にすることなく、ゆっくりと僕の中へと押し入ってくる。

一本二本と、充分な時間をかけ入念なマッサージを施し、柔らかくされた小さな窄まりが、ほとんど抵抗もなく受け入れていく。それに慣れることはないが、確実に僕の性感帯を突いてきて、身動き出来なくする。怖いくらい優しい手つきで。

「っ、う…ぁ……ん、ん」

気持ち良いとか痛いとか、感じる前に声は遠慮もなく出ていく。襲ってくる圧迫感に、誘発されて。

「と、ら……、だめ…離し」

「イけよ」

僕のそれを口に含んだまま、虎は挑発的に微笑む。このまま自分の白濁を出してしまえば、虎の口内に…そう続けたいのに、もう僕には言葉を繋ぐ余裕も、彼を引き剥がす力も残っていない。

「っ……ん」

びくびくと痙攣を始めたものを、虎は満足げに舐めあげ、わざとらしく喉をならした。

「っの……汚い、よ」

「なんで」

「なんでって…」

ゆっくりと体を離し、虎は僕を見下ろすようにまた覆い被さってきた。僕の足の間に体を滑り込ませ、片足を持ち上げながら。次に続く行為に気づき、ぐっと息が詰まる。果てたばかりだというのに、そこはもう硬くなり始めていた。

「蓮、足」

開いて、と耳元で囁かれ、そこはさらに硬度を増す。

「…やっ」

反射的に出た熱っぽい声を冷やすように、常温より温度の低い液体が、内腿を伝った。指で慣らしたときよりも多いのか、挿入部を大幅にはみ出して僕の足を這っていく。

「っ」

「力、抜け。痛かったら止めるから」

嫌なら拒絶すれば良い。力で勝てないとわかっていても、拒絶は出来る。そしてそれに、虎が従ってくれることもわかっている。それなのに…

「ひっ……い…ぁ」

僕は受け入れるのだ。

「蓮」

暑い、硬い、苦しい、いろんな感覚が僕を襲い、それから救い出すように虎の声とキスが落とされる。生理的に流れていく涙を、時折舌で掬いながら。

僕は滲んでいく視界で、その顔を見上げて声をあげるしかできない。けれど、僕を見下ろす虎の顔が酷く辛そうで、苦しそうに歪む瞬間は見逃さない。僕の体を気遣ってゆっくりと始まる律動の中で、埋まらない何かを見ているような…漆黒の瞳には確かに僕が映っているのに…虎はとても寂しそうな顔で僕を抱く。

「っ…」

その後のことはわからない。自分が絶頂を迎えたのか迎えていないのか、それもわからない。気を失って、気づいたら虎の腕の中にいる。そして気づくのだ。
べたつく体は拭かれていて、下着もはいている。乱れた布団はしっかりと僕の上にあり、散らかるティッシュは姿を消している。そう、綺麗に後始末されていることに。

僕らのこの無生産な行為はただでさえ無意味なそれに、悦楽に浸ることもない。虎は、どうして僕を抱くのだろうか。本人に聞かない限り、答えはわからない。だけど、本人でさえも曖昧な返事しかくれないかもしれない。それでいいけれど。…今はまだ、それでいいのだけど…

僕は静かに寝息をたてる虎の頬に、手を滑らせた。そしてそっと額を寄せ、目を閉じる。良かった。素直にそう思うのは、“セックス”以外の場所にも、ちゃんと僕の居場所があると感じるから。僕を好きだといいながら誰彼構わず人を抱き、反面ではこうして僕を縛り付ける。その中で、思うのだ。

目が覚めたとき隣にあるその温もりに、何度救われただろうと。そして無防備なその寝顔に、僕は何度…


好きだと呟いただろう


今日もまた、誰にも届かない声でそれを呟き、僕を抱き締める逞しい体に手を回し、再び意識を手放す。



黒い瞳に吸い込まれ、黒の髪に溺れ
(いっそのこと壊してくれればいい)
(優しくなんて、してくれなくて…)



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