40、聞こえるのは悲しい声










上を向いても

横を向いても


此処にいるのは私だけ




私はいつの間にかこの闇を恐ろしいとは思わなくなっていた。心地良いとまでは言わないが、慣れというのは感覚を狂わせてしまう。




どこか分からない闇の中に
私はぽつんと佇んでいた。



私は何もないこの闇の中に身に覚えがあった。それはいつだったか……。




そもそも此処はどういう所なんでしょうか?もしかして此処はあの世というやつですか?




……という事は、

……私は死んだのでしょうか?

そうだとしたら、
随分と呆気なく死んだものですね



どうしましょう、死んだとなると大谷様のお世話が出来なくなってしまいます。大谷様はお困りではないでしょうか?私を呼び付けていないでしょうか?包帯は交換しなくてもいいのでしょうか、


しまった……死んでしまったら、私は何も出来なくなってしまう。他のお世話係が居れば良いんですけど……



ああ、心配です。





私はこんな所でぽつんと一人で居て良いんでしょうか……。




一人ぼっちは寂しいです。

一人ぼっちは悲しいです。







「……あ」


いえ、貴方も一緒ですね鬼さん。




きっとまだ私の中にいるのでしょう?
私から離れないで、いるのでしょう?


余程、私の事を大事に想ってくれているのですね鬼さん。





ねぇ、鬼さん。

ここは真っ暗ですね。



ねぇ、鬼さん。
私は大谷様にお逢いしとうございます




あの方は今、何をしてますか?
執務ばかりで身体を壊してないですか





大谷様、

私は貴方様に逢いたいです。
お口は寂しくないですか。
お腹は空いていませんか。
喉は渇いていませんか。
お薬はちゃんと飲んでいますか。







「(寂しい)」






貴方に会いたいです。











「……ねぇ」

「え?」

「……貴女も、一人ぼっちなの?」

「(誰、ですか?)」



どこからか、声がします。

とても悲しい声が。







「そこにいるのは誰ですか?」


誰もいないと思っていた真っ暗闇。
そこに誰かいるのですか。







「……ねぇ貴女は、だぁれ」

「え、私は、その」



声のする方にとぼとぼ歩くと、薄暗い場所に出て、そこに座り込む女性を見つけた。






「貴方は、何故、このようなところに」



そもそもここはどこなんでしょう。



「……ねぇ、ここは寂しいね」

「……そうですね」


黒髪の女性が話しかけてくれたので、その女性の前に腰を降ろした。





「……あの、貴女は?」

「貴女も、無くしたの?」

「え?」

「大事なひと、無くしたの?」

「いいえ、無くしていません……でも、お逢いしたいです」

「市もね、逢いたいの」

「……市、もしやお市様ですか?」

「市を、知ってるの?」

「はい、お会いしたのは初めてですが」

「……ねぇ、貴女は」

「え?」

「貴女は、鬼、なの?」

「いえ、人でありたいものですが、私の名前は葵と申します、お市様」

「葵、市とどこか似ているのね、とても」

「……お市様と、ですか」

「ねぇ、葵、市とお話しして、一人はもう寂しいの……悲しいの」

「ええ、私で良ければお話相手になりましょう、私も一人は寂しいです」

「……優しい、のね」


私達はしばらくお話しをした。
此処がどこなのか、会いたい人というのはどんな人なのか、お市様は色々と教えてくれた。







「葵は、行ってしまうの?」

「……え?」

「ずっと、貴女を呼んでいる人がいる、葵は市を置いて行ってしまうの?向こうに行っちゃうの?」

「お市様、私は守らないといけない方、尽くしたいと思う方がいます、私はその方の元へ行きたいです」

「……優しい優しい、葵、眩しいものには気を付けて、闇は光にとても弱い、眩しい光の前では闇は消え去ってしまう……」

「光?眩しいもの?」

「……ねぇ、葵。」

「はい、お市様」

「また、市とお話ししてくれる?」

「ええ、私で良ければまたいくらでも」

「……ありがとう」



お市様は優しく笑った。

私と似ているお市様。

お市様も闇に愛されているのですか。
どうか泣かないで下さいお市様。


私は貴女とまた会えそうな気がします。













ー 「娘」 ー



「……大谷様?」



どこかで大谷様の声が聞こえた。
私を呼んでいるのですか?
どこにいらっしゃいますか。



私はすぐに貴方様の元へ





「……葵」

「お市様、私は行かねばなりません」

「……また、会える?」

「はい、必ず」

「……貴女には、大事な人がいるのね、とても羨ましいわ、市はね、守れなかったの」

「お市様……」

「葵は、優しく、強いから、きっと守れるわ、鬼さんもいるみたいだし……でも無理はしないで」

「ありがとうございます、お市様」

「また、ね」

「ええ、またお会いしましょう」





真っ暗闇の中でお会いした姫様。
いつかまたお会いしましょう。



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