46、面の下に隠れた感情









此度、西の連合軍には
武田・毛利・長曾我部・島津が加わり、大阪城には真田幸村が到着していた。





「お久しぶりにございます!葵殿!」

「お久しぶりです、真田様、佐助さん」


白藤色の着物姿で城内を歩いていると、見覚えのある赤い武将、真田幸村様に話しかけられました。その後ろには佐助さんが飄々と立っていました。お早いお着きですね。






「葵殿は、その、暫し見ぬ間に……その」

「?」

「俺様は葵と久しぶりじゃないけどね、つい最近アンタんとこの主様のお遊びで散々な目に遭わされたし。全くもう、あん時は石田さんに斬られそうになったっていうのに葵は何事もなかったかのように無視するし、俺様にも攻撃してくるしさ」

「あら、何の事でしょう」

「……しらばっくれる気?」

「さぁ、しかし私はいつでも主を守る務めにございます、何かあれば誰であろうと闇の中に取り込みますよ」

「うっわ、怖いねぇ」

「さて、お客様を案内するように言われておりますのでご案内致します。真田様、大阪銘菓の団子も用意しておりますよ」

「おお!では行こう!」


団子に目を輝かせた真田様をお部屋へと案内し、佐助さんは部屋には入らず相変わらず私を睨んでいたようだった。




「私は信用ならないですか?」

「……はぁ、こうやって葵に敵意を向けても仕方ないか、今は味方だしね」


そう言って、
睨むのを止めてくれた。






「味方……ですか」

「ん?味方じゃないの?」

「どうでしょう、私が仕えるのは大谷様のみです、真田様達が大谷様の味方であるならば私は武田と味方でしょう」

「おいおい、大谷が裏切ったらアンタも裏切ってる事か」

「ええ、私はいつでも大谷様の後ろに」

「……疑ってても仕方ない、か。それに石田とも同盟組んじゃったし」

「では今は、味方ですね」



にっこりと笑って佐助さんに言った。





「あ、そういえばかすががアンタの事聞いてきたからどうしようかと思ったよ」

「……かすが?」

「俺様と一緒にいたくノ一、上杉んとこの忍びだけど今は武田の力になってくれているよ」

「ああ、あの方ですか」

「あの面の女は誰だ、とか、あの恐ろしい闇は何だ、とか凄い形相で問い詰めて来てさぁ、俺様困っちゃった」

「そうですか、しかし何故そこまで私の事を?」

「さぁね、なんとなく濁らせておいたけど……でさ、前々から思ってたけど葵のその闇の力って結局何なの?婆娑羅のようでそうじゃないって感じだし、それにあの黒い手…まるで冥界の」

「お答え出来ません」

「なんで?」

「大谷様に口止めされてます、同盟国と云えど他国の者に話すなと」

「それって結局さ、葵の力に秘密がありますよって言ってるようなもんじゃない?」

「……あら、私とした事が」

「馬鹿正直に言っちゃうんだねぇ、まぁいつか教えて貰うよ、お互い闇と影を使う者としてね、それとも今無理やりに聞き出してもいいけど?」

「恐ろしい方ですね」

「……アンタ程じゃないけどね」

「そうでしょうか」



ではまた、と
佐助さんと別れ、仕事へと戻った。











「……?」

自室で小太刀の手入れをしていると、
どこからか声が聞こえた。





「この声は……お市、様?」

か細いその声は、以前狭間で会話をしたお市様の声だった。聞きとる事は出来なかったが、その声はとても悲しい声だった。



お市様は今、徳川に連れ去られ囚われていると聞いた。今、お市様はどうしているでしょうか。徳川が何を考えているのか分からない今、どうにか救い出す事は出来ないのでしょうか。




「……お市様、どうかご無事で」





※※※※※※※※※※※※※






大阪城より離れ、
場所は屋敷内の離れにある大谷の部屋。


その静かな部屋に
真田幸村は呼び出されていた。






「……お市殿、でござるか?」

「左様」

「……。」


私は大谷様の部屋の隅に背筋を真っ直ぐにして座り、大谷様と真田様の様子を黙って見届けていた。いつもと違うのは、私は白藤の着物姿ではないという所であった。今の私は大谷様の世話係の女中ではない。


昼にも関わらず、しばらくは部隊の方の仕事を主にして動けとの命令が下り、



私は黒装束を身に纏い、

面を付けていた。






「今は亡き魔王の妹君よ、その身は徳川が拉致しておる」

「徳川殿がッ!?」

「そこでよ、武田の力をお借りしたい。お市殿を奪還して貰いたいのだ」

「お市殿の……奪還」

「(お市様を、助ける?)」


大谷様の言葉に、私は思わず声を出しそうになった。我々西の軍はお市様を救おうとしている。



お市様、


私も、助けに行きたい。


しかし私は大谷様の部下、命令されていない勝手な行動は許されない。






「魔王の妹君と、覇王の左腕、天下を治める正統性がどちらにあるかは明らかになろう」

「されど、徳川の城、駿府城に我ら武田だけで忍び込めるかどうか……」

「いや、ぬしらだけではない」

「む?」


真田様が首を傾げると、
大谷様の部屋の襖がゆっくりと開いた。





「私達も、ご同行させて頂きますよ」

「……。」


私は部屋に入ってきた見知らぬ長い銀髪の男を見て、膝を立て、スッと小太刀に手をかけた。






「!」

バッと、真田幸村は殺気を感じ、
後ろに潜む黒装束の者を見た。







「娘、殺気を解け」

「……はい」

どうやら殺気が漏れていたようで、小太刀から手を離し、座り直した。




「(……なんと恐ろしい殺気でござるか)」

「この者は西軍の参謀・天海殿と織田軍の磯野殿よ」

「お市様は我ら織田軍の主、徳川の好き勝手にさせるわけには行かぬ!何とぞお力をお借りしたく!」

「あいわかった、我ら武田がお市殿の奪還に力を貸そうぞ!」


真田様が織田軍に頷くと、私は視線を感じた。それは疑う事なく銀髪の男、西軍の参謀・天海様の視線だった。



「(何か嫌な予感がします)」

「刑部殿、私からひとつ、頼みごとをお願いしてもよろしいですか?」

「なんぞ」

「刑部殿はとある部隊をお持ちだと聞きます、とても腕っ節の良い者ばかりだと、その後ろの方もそうなのでしょう」

「……。」

「……部隊?でござるか」


真田様は私の方を振り向いた。






「天海殿よ、われにはぬしが何が言いたいのか分からぬ」

「では正直に申しましょう。どうかその部隊の者をお一人、お借り出来ませんか?出来れば……そこの者を」


天海様はジロリと私の方を見た。







「(目を合わさないでおきましょう)」

「すまぬがお貸しする事は出来ぬ」

「そうですか、その方にはお市殿と似た何かを感じたのですが……」

「(お市様……?)」


天海様の言葉に私は反応してしまった。天海様の視線と同じく、大谷様の視線が私に突き刺さった。






「その者がご同行頂ければ、お市殿奪還も容易くなるとなるでしょう」

「なんと!それならば心強いでござる!」

「刑部殿、どうかお力を」

「……娘」

「はい、大谷様」

「ぬしは、」

「私めが大谷様のお力になるとあらば」

「……左様か、ならば此度の任務にぬしも同行するがよい」

「かしこまりました」


大谷様の側を離れるのは心許ないですが、これも大谷様の命令とあれば必ずや成し遂げれみせましょう。





「大谷様の命令により、お市様奪還に私も力を貸しましょう」




待っていて下さい、お市様。


今、葵が助けに行きます。



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