丑三つ時、
ぼうっと漂う蝋燭の灯りが
部屋を薄暗く照らす光となっていた。
「……っ」
大谷様の手が、私の腹の上を撫でるようにゆっくりと這っていた。そして時折、私の腹にある刀傷を見て、目を細めていた。
「……キズモノの女か」
「醜い身体で、申し訳ありません……」
「ヒヒッ、なに、われを悦ばせれば良い、鳴いて喚け、われを見よ、われだけを」
「……ッ」
大谷様の指は私の中をかき回し、それに悦ぶ私はまた達し、再び股を蜜で濡らした。
「……誠に美しく、若く、柔らかな白い肌よ、われはこの汚れなき肌が羨ましい」
そう呟き、大谷様の手は私の腹や腰を撫で回していた。私の蜜の溢れ出す中から指を引き抜く様子もなく、私はひたすら下腹部の快感に耐えていた。
「……大谷様」
「娘よ、今宵のわれの足は上手く動かぬ故」
「では私めが」
「さようか」
私は仰向けになる大谷様の上に跨がり、存分に濡れた女のそれを大谷様のはち切れんばかりの棒にあてがい、ゆっくりと腰を下ろした。
ぬるりとした中に雄が挿入ると、ゾクッとした快感がやってきた。大谷様の大きさしか知らぬ私の中はそれをぎゅっと締め上げた。
「申し訳御座いません……ッ」
「ヒヒッ、入っただけでよがるとは淫らな娘になったモノよ」
「……ま、まだ、動かないで下さい」
腰を揺さぶり、下から突き上げてくる大谷様に懇願するが、気持ち良さには勝てず、次第に私の腰も動いていた。
「早よう動け」
「……はいッ、んッ…や、」
上下に動けば、擦れる中にゾクゾクとした快感がやってきて、それを求める為に私はひたすら動いた。
「良い、ヨイ、実に良い眺めぞ」
「大谷様ッ、」
「……ッ」
「大谷様ッ、私はもう……ッ」
「ならぬ、動け、止まるなッ」
「……やッ、あッ」
絶頂を迎えそうになり、動きを止めようと腰を浮かすと、大谷様が手が私の腰を強く掴んだ。
「……おお、谷さま?」
「逃げるでない」
「……え、あッ、ん」
浮いた腰を下ろされ、下から突き上げられて硬いモノが激しく私の奥を突き始めた。
「……ッ、やッ」
「……ッ」
強く、激しく中を突かれ、
頭がおかしくなりそうだった。
大谷様の顔を跨がりながら見下ろすと、大谷様もこちらを見ていたようで、ぱちりと目が合った。
「大谷様ッ……」
「……ッ」
この行為の最中は、大谷様は決して私の名を呼ばない。しかし、気付けばいつも優しい目で私を見てくれていた。
その目が、私は好きだった。
この行為に愛など無いと知っていた。
大谷様が私を求めるのは己の欲求を満たす為のみ。感情などはない。
私は人形のようなもの。
自身の僅かな好みさえあれば女などどれでも良いと、昔廓の客が言っていた気がする
顔の良い女を求めるか
心の綺麗な女を求めるか
身体の美しい女を求めるか
人それぞれに好みはある。
しかし大谷様は、どうなのだろうか。
大谷様程のお偉い方、
女なら誰でも良いというわけでもないでしょう、醜い私を抱く理由としては一人で欲を吐き出すくらいなら手頃な私で丁度いいという事。
それだけの事。
ならば私は主様の為に
欲を吐き出す為の人形となりましょう。
「大谷様……どうかお好きなだけ、私を喰ろうて下さいませ」
「ぬしは……」
「……あッ、」
激しく奥を突かれ、大谷様は私の中にどろりとした白濁液を吐き出した。
「はぁ、……ッ」
「……。」
「大谷様……?」
大谷様の胸に倒れ込んだ私の身体を、大谷様はぎゅっと逞しい腕で包んでいた。
「(……暖かい)」
「われは何度でもぬしを喰らう、逃げぬというのか」
「ええ、大谷様がお望みならばこの醜い身体、いくらでも捧げましょうぞ」
「……左様か」
「私めでよければいつでも貴方様のお相手を」
「……。」
ねぇ大谷様、
まもなく大きな戦が始まろうとしております。あとどれだけ貴方様とこうして寄り添う事が出来ましょうか。どれだけ貴方様と共に過ごせますでしょうか。今というこの時間をもう少しだけ私に頂けないでしょうか。
私は主の為に働きます。
だからお願いです、
これから始まる大きな戦が終わっても私をお側に置いて下さいませ。こうして大谷様の温もりを感じさせて下さいませ。お世話は何だって致しますのでどうか私にお申し付け下さい。
貴方様から愛など求めませぬ、
何も求めませんので、どうか。
どうか私をお側に。
何でも言う事の聞く人形と思って、
私をいつまでも使って下さいませ。
「……大谷様」
脱げ散らかっていた着物を着て整え
布団でお休みになる大谷様をお側で見下ろし、息も穏やかに寝入ったのを確認し私はそっと部屋を出た。
結っていない髪を背中に垂らしながら真っ暗な廊下をひたひたと歩き、真っ暗闇を見に纏いながら自室へと進んでいた。
真っ暗。
真っ暗。
私はいつしかこの真っ暗を近しい存在と思ってしまったようです。だってほら、私の中の鬼が手を伸ばそうと疼いていますから。
「(闇は私を愛してくれた)」
「……そこに誰かいるのかい」
「!」
ひたひたと歩いていると、暗い廊下にぼうっと光が見えた。それは蝋燭の光のようだった。
「……葵?」
「半兵衛様、ですか?」
廊下でばったり出会ったのは、白い着物に羽織り姿の半兵衛様だった。
「こんな夜中にどうしたんだい?」
「私は……」
「……おや、君からは男の匂いがするね」
「!」
半兵衛様が私に一歩近付いて来たかと思えば少ししゃがんで私の首元に顔を埋めた。
私の着物には情事の匂いや大谷様の煙管の煙の匂いが付いてしまっているかもしれない……と、私は身体を震わせた。
「あ、あの……半兵衛様?」
「こんな夜更けに逢い引きかい?君に好い人がいたとは、妬けるね」
首元で囁く半兵衛の声と吐息に、
ビクッと私の身体が反応した。
「ねぇ葵、もし頼めば、君は僕の相手もしてくれるのかな?」
「半兵衛様……何を」
「どうなんだい?」
「……ッ」
目の前に半兵衛様の綺麗な顔があり、お互いの唇が合わさりそうなくらい、半兵衛様は私に近寄って来た。半兵衛様は弱々しいながらも、とても色気があり、雰囲気に飲み込まれそうだった。
「ふふ、冗談だよ。けど君の気持ちを独り占めするその男が羨ましいね、君が女の顔をする相手だ、さぞかし良い男なんだろうね」
「私は……」
「でも……大谷君に嗅ぎつかれないようにね、彼はとても嫉妬深いから、知られたら君の好い人は殺されてしまうかもしれないよ」
「……。」
「さて、いくら真っ暗闇を属性として持つ君でも、このままさようならと言うわけにも行かない。部屋まで送ろう」
「……ありがとうございます」
半兵衛様に忠告され、私は半兵衛様に手を繋がれて自室まで送って頂いた。
「でも……僕はね、葵」
「はい」
「君を欲しいと思ってしまった事は何度もある」
「……半兵衛様」
「でも君の目には、僕はうつっていないんだろう?少し、寂しいね」
「……。」
「僕は最後まで西と東の戦いを見届けさせて貰うよ、君にこの命を貰ってから病気が無かったかのように体の調子が良いんだ」
「……それは本当ですか半兵衛様、もしやご病気が治られたのですか?」
「いいや、完全に消えきったわけじゃない、けど軍医が言うには回復に向かっているようだよ、だから僕も共に戦おうと思っている」
「半兵衛様のお力があればなんと心強い事でしょう」
「ふふ……、君はいつも真っ直ぐだ。嘘が付けない性格なのかい?」
「……。」
図星です、半兵衛様。
私はどうやら馬鹿正直な者のようです
「半兵衛様、お部屋まで送って下さりありがとうございます」
「いや、構わないよ、じゃあね」
「はい」
半兵衛様と別れて、私物が少ない殺風景な部屋の中に入った。
もうしばらくすると上田から真田様がいらっしゃると聞いている、こちらに来るとなるといよいよ戦が近いという事……。
気を引き締めなければ。