同居始めました | ナノ



「やっと終わった……終わった……。」


ふらふらしながら部屋を出ると、
リビングで雑誌を読んでいた一静君に
ギョッとされた。失礼な。

原稿の締め切りと戦っていた私はようやく、今月分の漫画を描き上げた。そう、私は今月も仕事をやり切ったのだ。





「……疲れた。」

ソファにばたんと、倒れ込むと一静君が
「お疲れ様」といって頭を撫でてくれた。

ちなみに徹夜だった私の髪はぼさぼさだ。
女の子だからもう少し身嗜みを……と、言われても、私にとってはそんな事よりも目の前の締め切りの方が何倍も大事だ。髪なんてどうでもいい!






「……いっせー君、今日は部活お休みなんだね」

いつも土日は部活がある一静君だが、
今日は家にいるようだ。


現在時刻は11:34




「GWに合宿があるから、今日は休息日。ちなみに明日も休み」

「あー、そうなんだ。じゃあどこか行く?」

「……葵さんは休んだ方が良いんじゃ?」

「ずっと部屋に缶詰めだったから、むしろ外に出たい……お洒落して遊びに行きたい、あと買い出しも行きたい、一静君……一緒に行こう。」

「俺は構わないよ、じゃあデートしようか」

「デート!?」

「……あ、ごめん嫌だった?」

「デートしたことない、そうだよね想像で描くのと実際にデートするのはやっぱり違うよね……うん、実際に高校生のデートを……うん、いいね、是非参考にしよう」

「(デートしたこと無かったんだ)」

「一静君、私ちょっと急いでシャワー入って準備するから待ってて」

「わかったよ」

「ありがと」


ふらふらする体を起こして、
リビングからバスルームに向かった。

急いでシャワーに入って、化粧をして
髪も綺麗に整えて、可愛いワンピースを着た。


ちなみにこの無駄に可愛いワンピースは
現在の担当さんが是非ヒロインの私服の参考に……とわざわざ買ってきてくれた服でもある。女の子らしいワンピースに少々戸惑ったが、実際にこういう服を着てデートをしてみないとヒロインの感情や心情を上手く表現出来ないと思うんだよ私は!

ちょっと丈が短くて恥ずかしいけど、
少女漫画のネタ探しの為なら頑張れる!




「おまたせしましたっ」

部屋を出て、リビングで待たせている一静君に近寄った。雑誌はもう読み終わったのかテレビを見ていたようだ。




「……。」

「ごめんね、待たせて」

「……。」

「一静君?」

「……あ、葵さんか。」

「……私以外に誰が」

「あまりにも綺麗な人だったから、ああ……化粧をしてるからか、凄く綺麗だね」

「!」

「……葵さん?」

「一静君今のもう一回言って!今の言葉、凄くキュンってした!待ってメモるから、是非漫画に使わせて下さい!」

メモ帳とペンを持って、一静君にぐいっと近付いて甘い言葉の催促をした。




「……恥ずかしいからもう言わない」

「ええ!?」

「ほら、早くお買い物行こう」

「あ、うん。そうだ、デート、デートを実際にしてみなくちゃ」

「……デート相手は俺だけどね」

「なんで?一静君、格好良いじゃん」

「……そういう台詞、どこで覚えてくるの」

「うん?台詞?」

「いや、なんでもない(一応、少女漫画家か)」

「?」


どうしたんだろ?



というかやっぱりデートって言ったら、最初はどこに行くんだろ?水族館?動物園?あ、ボウリング?


いつも漫画に描くデートコースは学校帰りとか家の近くの公園とか街中をショッピングとかだからなぁ……。





「デートってどこ行くの?」

「……映画行こうか?」

「デートっぽい!」


なるほど、映画か。
初々しいカップルはまず映画デートから
始めるのが良いのかもしれない!
流石だね、一静君。



でも私達が見たのは超絶ホラーモノでした。
だって私、ホラー好きだし。
一静君も意外とホラー好きらしいし。


あれ!?
なんかデートっぽくない……!?



これじゃ駄目だ……。
もっとデートっぽい事をしなければ。





「一静君、次は服、服を見に行こう!私の!」

「いいよ」


嫌な顔ひとつしない一静君と一緒にショッピングをしてみたが、私は自分の服そっちのけで、ひたすらヒロインに似合いそうな服を手当たり次第に写メっていた。


一静君はそんな私に付き合ってくれて、
一緒に女の子らしい服探しを手伝ってくれた。
ああもう、きっと一静君はレディース服売り場なんて入りたくなかったんじゃないかな?やっぱり男の子だからこういう女の子用の服屋は居心地が悪いんじゃ?




「葵さん、その服はちょっと派手だから、清楚系ヒロインならこっちじゃない?」

「(あれ?意外と平気そう?)」

「女の子の服ってこんなにも種類があって選ぶのが大変そうだよね、好きな男の好みも把握しないといけないし、女の子って大変だね」

「(しかも感想まで……!?)」


松川一静……怖いものナシ?




っていうかあれ?
これも全然デートっぽくない!



普通はこう、

「お前には、これが似合うゼ」とか
「君の可愛い顔には、この色がいいよ」とか


そういう、
あまーい会話とかするんじゃないの??
デートって男が女の子をリードして
褒めまくるって事じゃないの?






「……あのね一静君、凄く漫画の参考になったんだけど 、これなんかデートっぽくない、かも」

「ああ、確かに」

「……うん」


とりあえず服屋から出た私達、
次はどうしようか悩んでいる一静君を見て、なんだか悪い気がしてきた。一静君だって本当は好きな女の子とデートしたいんじゃないかなって、

私だってそりゃ……実際のデートが、
どいうものか知りたかったって事もあるけど





「あ、そうだ」

「ん?」

次はどこに行くんだろう……と
背の高い一静君を見上げると、


私の手を取って、繋いできた。





「……え」

「手を繋ごう、そしたらデートっぽいかも」

「……え、あ、うん、デートっぽいかも」


私も実際に漫画ではよくヒロインと好きな男の子と手を繋いで歩かせている……でも、



こんなにも緊張するの??





「……えっと、一静君は手が大きいですね」

「葵さんは小さくて可愛い手ですね」

「……ヒロインはここでドキドキします」

「葵さんもドキドキしてますか?」

「……してます、最初のデートで初めて手を繋ぐ、こういう感じなんだね、一静君」

「参考になった?」

「なった、凄くなった!ヒロインの心情をちゃんと描けそう!」

「なら良かった。ちなみに俺は繋いだ手を離す気は無いけど、このまま買い出しに行く?」

「うん、今日の御飯は私が作るよ、一静君は何が食べたい?」

「チーズハンバーグ」

「好きだね、チーハン」

「葵さんが作ったチーズハンバーグが一番美味しい」

「褒めても何も出ないよ!でもアイス買って帰ろう!」

「葵さんが食べたいだけでしょ」

「当たり」

「俺も食べる」

「あ、DVD借りる?さっきの映画の前作見たい」

「いいね、行こう」

「よし、決まり」



一静君の大きな手を繋いで、
私達は一緒に歩いた。


ヒロインはこうやってドキドキして、
隣の彼を見上げていたんだね。

繋いだ手は、とても温かくて

周りの人なんてちっとも目に入らなくて
ただただ、隣で笑う彼だけが映っていたんだ。






(男の人の手って、こんなにも大きいんだ)

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