同居始めました | ナノ





春、桜の季節。


今日から私達は高校生です。






「ブレザーって初めてだなぁ」


新しい制服を着て、おかしい所はないかとか、髪がはねていないかとか部屋の鏡でチェックをした。


うん、大丈夫そうだ。
私もついに高校生かぁ、と照れ臭くなった。





「一静君、制服どうだった?」

部屋を出てリビングに向かい、現在私と同じマンションで同居中の一静君に話しかけた。







「葵さん……どう思う?」

制服を着た一静君がくるりと振り向いて
私に制服姿を見せてきた。





「……似合ってな、いや……うん。良いんじゃないでしょうか……」

「はっきりと似合ってないって言って、俺もそう思うし」

「……青城の制服ってオシャレで格好良いって有名だよね」

「葵さんは似合ってるよ」

「ありがとう、変じゃないかな?」

「いや、大丈夫(…スカートが短い)」

「そっか、良かった。それじゃあ学校に行こうか、一静君と同じクラスが良いけど、やっぱり同じ名字だと確率低いのかなぁ」


私のマンションから青葉城西高校は割と近い距離にあった。まぁ近いから青城にしたんだけどね。学校終わったらすぐに帰って漫画描きたいし。




入学式にはたくさんの生徒が来ていた。
ついに高校生活のスタートかぁ……と、


少しワクワクした。


だって私は少女漫画家だ。
あっちを向いても、こっちを向いても
青春という2文字が見えてくるわけで、

あの子は誰が好きなのかな?とか
学年一のイケメンはどこかな?とか
下駄箱には恋の手紙が入っているのかな?とか



高校生活というのは、
少女漫画のネタの宝庫だったりするわけです!






「……葵さん?どうかした?」


挙動不審な私に一静くんが少し引いていた。




「一静君、青城には学校一イケメンの王子様とか居るのかな?」

「え?」

「入学式に運命の出会いとかないかな?学校の近くに海辺の灯台とか開かずの教会とか無いのかな?幼馴染と久しぶりに出会って恋に堕ちたり、クールな眼鏡の先生と禁断の恋とかないかな、一人の女の子を奪い合って男の子達の喧嘩とか起こらないかな?私としてはすぐに起こって欲しいんだけど!どう思うかな一静君っ!」

「……葵さん、とりあえず落ち着いて」

「割と落ち着いてる」

「……そう」

「あ、やっぱりクラス違うみたいだね」


張り出されている紙をみて、
やっぱりか……とため息をついた。


入学式も事務的にすぐ終わり、教室でクラスメイト達に自己紹介をする事になって、定型文のような自己紹介をして、私の高校生活のスタートである入学式は……思っていたイベントは起こらずに終了した。




「……おかしい」

高校生活初日が終わって、
一静君と一緒に家に帰る途中、私は呟いた。



「何が?」

「恋愛イベントが全く起こらなかった」

「……ああ、起こって欲しかったの?」

「そりゃあ、漫画のネタになるし!」

「実際はこういうもんだと思うけど」

「……私もそう思い始めてきたから余計に悔しいの」

「普通に学校生活を楽しめばいいんじゃない?」

「……腑に落ちない、あのね一静君」

「ん?」

「お昼はパスタがいい」

「はいはい、作りますよ」

「お昼から画材屋さん行きたい」

「はいはい、お供しますよ」

「一静君、優しいから好き」

「はいはい、俺も……え?」

「晩御飯は昨日の残りのカレーかなぁ、買い出しも行かなきゃだね」

「……そうダネ」

「一静君、部活って朝練とかある?」

「……多分、あると思う」

「そっかー、じゃあ朝は早いんだねぇ」


部活って大変だなぁ…と、
思いながら家に向かった。




マンションに帰って食べた一静君お手製パスタはとても美味しかった。一静君ば私より料理が上手いんだから驚きだ。



いい旦那さんになるよ彼は。





「そういえば、一静君宛に荷物届いてたよ」

お皿を洗い終わって、小さな箱を彼に渡した。ちなみに差し出し人は母親の再婚相手から。中身は見てないから私は知らない。





「一静君の叔父さんから?」

「そうみたい」

箱を開けて見ると、
そこには新機種のスマホが入っていた。



「……携帯?」

「あ、手紙が入ってるよ「高校入学おめでとう、自由に使って下さい」だってさ、良かったね一静君」

「……ねえ葵さん、連絡先教えて?」

「勿論、これでいつでも一静君と連絡が取れるね。」

「……こんなに贅沢させて貰ってもいいのかな」

「贅沢じゃないよ、一静君はもっと甘えるべきだよ、いつも一静君はどこか遠慮がちだし」

「……そりゃあ、ここだってお世話になってるし」

「ここはもう一静君の家でもあるんだよ」

「……。」

「ただいま、って言って良いんだよ」

「……ありがとう」

「お?泣いた?」

「泣いてない、でも明日は葵さんの好きなハンバーグ作る」

「チーズ入れてね、私入ってる方が好きだから」

「わかった」

「楽しみだなぁ」





(他人ではない、もう家族なんだ)
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