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夏休みなんてあっという間に終わってしまい、
いつも通り葵さんと毎日を一緒に過ごしていた。花巻が「夏休み中に告白しろ」と言っていたがいざとなってみれば俺に告白なんて出来るはずもなく、
葵さんは俺が彼氏だったらいい、みたいな事を言ってくれたはいいが、それはやっぱり理想の彼氏がそうであって欲しいというわけで、俺を彼氏にしたいという事には繋がらない。
落ち込んでいいのか、それとも好きになってもらう努力をするべきか。むしろ押してみれば葵さんは俺を見てくれそうな気がする。けど押せない臆病な自分もいる。
なんだかんだで今の状況にも満足してしまっているのかもしれない。それはいけないと思っているはずなのに。
「ただいま」
そう言って家に帰れば、エプロン姿の葵さんが晩御飯の準備をしていた。
「おかえり、もうすぐご飯出来るよ」
部活で帰りが遅くなる日はこうやっていつも葵さんが晩御飯を作ってくれる。申し訳ないという事を言ってみたら「一静君は好きな事していいんだよ、いつも部活頑張ってるし、私も好きな事やらせて貰ってるから」と言ってくれた。
葵さんは俺が帰る時間には晩御飯を作って待っていてくれたり、部屋やリビングの掃除をしたり、なにかとてきぱき家事をこなしている。部屋に籠る時は仕方ないにしても、女子高生にしては凄いと思う。
「葵さん、いい奥さんになりそう」
「なにそれ、あ……女子高生妻?うーん、そういうのもありなのかな、いや、でもなんかちょっと」
「ごめん、そういうつもりで言ったんじゃない」
このままだと漫画のネタにされそうなので
それ以上言うのはやめておいた。
「こうやって葵さんと一緒に過ごすのにも慣れて来たかもしれない、凄く居心地がいい」
「そう言ってくれると嬉しいね、私の所なんかで良いのかなと思ってたから」
「ばあちゃんちに居た時はあまり親戚とか会わなかったし、どんな人だろうと思ってたらまさかの女子高生だったからね、驚いた」
「私も親戚の子って聞いてたから小学生くらいかと思ってたら随分と大きな子が来て驚いた」
というか母よ、
身長180cmの男子高校生ならそう言ってくれ
「私も親戚の子を預かるって聞いた時は不安だったけど、一静君の方が不安だろうなと思ってたから」
「けど、葵さんに会えたから」
「ん?」
「葵さんに会えたから、不安とかそういうの無かったことになってる。それに俺は自分が不幸だとは思ってないよ、葵さんに出会えて良かった。俺を受け入れてくれてありがとう」
「なんか改めてお礼とか、照れるね。私は一静君に何もあげてないし、してあげれてないから…申し訳ないというか」
「こうして一緒にご飯を食べたりしてくれればいいよ、一人きりのご飯は寂しいから」
思えば、家族で食べるご飯というのを俺はした事がない。覚えていないだけで、本当は両親と当たり前に食事をしていたのかもしれないが、俺は小さかったせいか覚えていない。
「お盆の時みたいに、親戚大勢が集まってご飯を食べるとか新鮮で楽しかった。俺そういう「家族でご飯」とか覚えていないから」
「一静君……」
「え、何で泣いて」
「ごめん、そうだよね……一静君は両親を、家族を」
「いや、その、両親がいた頃の記憶ないし、ばあちゃんしか知らないから、そこまで悲しくは……」
「一静君、私がずっと一緒にいるからね!」
「えっ」
ずっと一緒に……って、それって
「私はずっと一静君と家族でいるから、居なくなったりしないからね!」
「……ありがとうございます」
家族……ね、
なるほど、そうだね。
俺と葵さんは、家族。
俺と葵さんの関係を一言で言うなら
「家族」という言葉がふさわしいようだ。
「(絶対、嫌だけど)」
何、家族って。
俺と葵さんは家族以上の関係になっちゃいけないって事?そう決められてるみたいで嫌だ。
兄妹みたいだとか、親戚だからとか
そんなのどうでもいい。
兄妹ごっこも、家族ごっこも、
そんなの嫌だし、認めない。
俺は葵さんが好き、
今すぐ抱きしめたいし、キスもしたい。
俺だけを見て欲しい。
もちろん一人の男として。
今は一緒にいれるだけでいいと思っていたけど、葵さんが一人の男として俺を見ていないと分かったのなら、
「このままで」なんて終わらせない。
好きな気持ちは変わらない。
今のままでいいなんて思わなくなった。
(俺を見て、俺だけを見て、夢中にさせるから)
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