同居始めました | ナノ 29







【告白】
秘密にしていたことや心の中で思っていたことを、ありのまま打ち明けること。また、その言葉。





「……。」

リビングのソファーに座り、スマホで【告白】という単語の意を調べてみた。まぁ分かりきった説明が表示されるだけで何も得るものはない。





「(……告白、ねぇ)」


「好きです」
「気になってました」
「付き合って下さい」

……と、女子から告白と捉えていい台詞を言われた事は少なからずある。

前に付き合っていた彼女も、向こうから告白してきた。まぁ2週間という短い付き合いではあったけど。


自分から「好き」とかそういう類の告白した事が全くない俺は、いざ好きになった相手が出来た時に何をどう伝えればいいのか分からなかった。

そんな知識もないし、女性を落とすような甘い言葉が思い付くわけでもない。


リビングの机の上にある葵さんが描いた漫画の単行本を開いた。パラパラとめくると、そこには及川……によく似た女子生徒が、岩泉……によく似た男に告白するというシーンがあった。

甘ったるい告白シーンを見ながら、ああこういう告白の仕方もアリなのか……と思ったけど、そもそもこの漫画を描いているのは葵さんであって、この告白の台詞を考えたのも葵さん。


という事は、葵さんはきっと俺よりも【告白】のボキャブラリーが多いだろう。

そこはやはり少女漫画家というべきか。







……けど本人は恋愛経験ゼロ





「(器用なのか不器用なのか)」


葵さんは恋をした事があるのだろうか?
葵さんに好きな人はいるのだろうか?





葵さんは、

俺の事を

どう思っているのだろうか?





知りたい、
けど、知りたくない。



ぐるぐるぐるぐる、回っている。



不条理だなぁ……とつくづく思う。






「でも……好きなんだよなぁ」


葵さんが出かけて居ない静かなリビングで思わず独り言が出てしまった。

恋愛下手な彼女に対して、余裕のある俺を見せてはいるが、本当の俺はこんなにも奥手で逃げ腰の弱い男だ。


いざって時に、恐怖が邪魔して気持ちを上手く言葉に出来ない。嫌われてこれからの生活が気まずくなったらどうしようとか、俺はこんなにも臆病なのかと思い知った。





「……。」

けど、思い出すのは葵さんを抱きしめた時の感触や、唇の柔らかさ。そのどれもをふと思い出してしまい、急に恥ずかしくなり右手で顔を覆った。




落ち着け、俺。




手を伸ばせば、届く距離にいる彼女。
けど、それ以上を望んではいけない。

嫌われたくない。
拒絶されたくない。

……けど、他の男に渡したくない。







ずっと一緒に居たい。






「はぁ……」

「悩み事?」

「!?」


バッと顔を上げると、いつの間に帰ったのか葵さんがリビングに居た。「ただいま」と言う彼女に「……おかえり」と言った。葵さんが帰って来た事に気が付かない程、俺は悩んでいたらしい。




「悩み事を溜めるのは良くないよ?」

「俺もそう思う」


悩みの種は葵さんの事なんだけどね。けどそんな事言えるはずもない。

リビングに入って来た葵さんは持っていたトートバッグごと、二人が座るにしてはやけに大きいソファーに座った。







「……葵さんって今好きな人とかいる?」

「どうしたの突然?今は居ないかな、彼氏作ろうかなとは思うけど忙しくてなかなかそういう相手と出会えなくて」

「(それってやっぱり俺は眼中にない?)」



聞いてすぐに後悔した。

聞かなきゃ良かったと思ったけど、もしかした葵さんの好きな人が俺だったらいいな、なんて淡い期待をしてしまった。


……俺らしくもない。


でも好きな人が居ないという事は
俺を少しでも見てくれるという事で……。






「(彼氏なら俺がなってあげるから、他の男を見ないで、俺だけを見て、俺を好きになって)」




そんな事、言えるはずもなく。

言葉に出来ず、ひゅっと空気だけが漏れた。













「一静君が彼氏だったらいいのにね」











「……え?」


何を言われたのか一瞬、理解が出来なかった。
今、葵さんは何と言った?




「……え、今、俺が彼氏って…え?」

きっと今の俺を見たら花巻辺りが大爆笑しそうだ。そんな事より聞き間違いでなければ、葵さんは今確かに俺が彼氏だったらいいと言わなかっただろうか?




「一静君って優しいし、大人っぽいし、頼りになるし」

「!?」

「一静君が彼氏だったらなぁって思っ…一静君?」

「え?」


俺の方を見た葵さんは驚いた顔をしていた。





「え、どうしたの?顔赤いよ?」

「え、いや、葵さんが俺が彼氏だったら、なんて言うから、えっと葵さんは俺が好きなの?」

「え?…………え!?な、なんで?」

「俺が彼氏だったらいいって…そう言ってたから」

「い、言ったけど……」

「葵さん、顔真っ赤」

「一静君だって真っ赤だよ!」

「……。」

「……。」


お互いに顔を真っ赤にし、
二人は向き合ったまま動けなかった。



何か言わなければ、と思いつつも


何も言葉が浮かんでこなかった。







「……葵さん」

「は、はい!」

「葵さんは、俺の事を」

「!?」

「……じゃない、違う、そうじゃなくて」

「?」

「俺は、」

「……。」

「俺は、葵さんの事が」








ピンポーン!



「……!?」(びっくりした)
「……!?」(葵はソファーから落ちた)


無言で向き合っていると、
突然、来客のインターホンがなった。




「大丈夫?」

「う、うん……誰だろう?」

ソファーから落ちた私は一静君に手を貸して貰って、インターホンのモニターを見てみると、そこには見覚えのある家族がいた。




「あれ、お母さん?」

「えっ?」

「と、一静君の叔父さんと一樹(いつき)君」

なんとまぁ、母とお義父さんと
その二人の子供がやってきました。





「ねぇ一静君、私まだ顔赤い?」

「……いや、今はそんなに。俺は?」

「大丈夫」

「……。」

「……。」



パチッと目が合い、
再び顔に熱がこもるのが分かった。







ピンポーン!



「「!!」」



再び鳴った音で、急いで玄関へと向かった。





(ちょっと葵!いるんなら早く開けなさいよ!)
(一静君久しぶりー)
(あだー)

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