同居始めました | ナノ 28







「松川うぃーっす」

「おう」

お盆明けの久しぶりの部活、
部室へ向かうと眠そうな花巻とちょうど会った。





「松川、お盆休みどっか行った?」

「あー、葵さんのおばあさんの家に一緒に行った」

「ああ、そっか親戚だもんな。どこ?県外?」


部室のドアを開けながら花巻が聞いてきた。







「東京のはしっこ」

「マジか、東京いいじゃん」

「あんまり宮城と変わらなかった、むしろこっちより田舎だったかな。でも思ったより関東涼しかった」

「へー、でもいいなぁ東京、遊びに行きてぇよ。そーいや松川と葵ちゃんって親戚だったよな?たまに忘れるんだよな」

「え?二人共名字が「松川」なのに?」

「まぁそうなんだけど、ほら松川と葵ちゃんってあんま似てないじゃん」


部室に入り、ロッカーを開けながら花巻は「同じ松川なのにえらい違いだ」と呟いていた。




「そりゃ似てないだろ」

「へ?」

「俺と葵さん、血は繋がってないし」


よいしょっと、肩から下げていたスポーツバッグを自分のロッカーに入れながら隣にいる花巻に言った。部室にはぞろぞろと部員が入って来て、奥の方では岩泉が及川にキレていた。






「は?どゆこと?親戚じゃねぇの?」

「親戚だけど」

「でも血が繋がってないなら親戚じゃねぇじゃん?なんなの?松川は養子なの?もしくは橋の下で拾われた子なの?」

「うーん、説明すんの面倒臭い」

「いやいや、そこは気になるから説明してくれ」

「別に対した理由じゃないけど?葵さんの母親が俺の叔父さんと再婚したから親戚になったってだけだし」

「……ん?って事は葵ちゃんが「松川」になったって事?」

「そういう事、俺は生まれてからずっと「松川」」

「へぇ、あれ?そもそも何で松川は葵ちゃんと一緒に住んでるんだ?松川の両親は?」

「親は、俺が小さい時に二人共他界したらしい。つい最近までばあちゃんと一緒に住んでたんだけど……まぁ、身寄りがなくなった俺は叔父さん経由で今は葵さんの所に落ち着いた」

「松川、お前って結構苦労してたんだな」

「そうかな、色々あったけど縁あって葵さんに出会えて良かったし、不自由してないから苦労はしてない」


葵さんという大事な人に出会えて、
一緒に過ごして、とても楽しく暮らしている。

親戚をたらい回しにされるかもしれないと覚悟していたけど、そんな事もなく葵さんは俺にとても優しくて、葵さんだけは大切にしたいと思った。




「あ、そういえば松川」

「ん?」

「葵ちゃんとどこまでヤッた?」

「どこまでって、またそういう話かよ」


ニヤニヤと笑う花巻を目を細めて見た。そうだったコイツはこういう奴だった。







「なになに?なんの話?」

ひょっこりと後ろから話に参加して来たのは岩泉から逃げて来た及川だった。



「葵ちゃんと松川がどこまで進んだのかなぁって」

「えっ!? やっぱり松つんってあの子とそういう関係だったの?」

「で? どうなの松川?」

「どうなの松つん!?」

「あー……(楽しんでるなコイツら)」


なんでそんなに気になるのか、確かに葵さんの事が好きだと白状はしたけど、花巻が期待しているような事は何もない。





「どこまでも何も、俺は何もしてないし、する気もない」

「えー、じゃあ告白いつするんだよ」

「……。」

「そんなんじゃいつか葵ちゃん取られちゃうぞー?」

「それは困る」

「じゃあとっとと気持ち伝えたら?」

「まぁ、俺にあと少し、ほんのちょっとの勇気があればな」

「松川……お前、」


ため息を吐いた松川に、花巻は「頑張れよ」とだけ言ってロッカーをバタンと閉めた。




「……花巻、」

「俺は松川の事を応援してるから、だからあんま一人で抱え込むなよ?」

「……おう」

にかっと笑う花巻に頷いて、ロッカーを閉めようとした。しかし、バサっと何かが鞄から落ちてきた。





「松つん?何か落ちたよ?何これ漫画?」

「あ」


及川が拾い上げた漫画は、少女漫画だった。
それは間違いなく俺のスポーツバッグから落ちた。





「え、松つん……これ、」

少女漫画を手にした及川は、青ざめた表情で俺を見上げて来た。いや、お前が言いたい事は分かる。けどとりあえず言い訳をさせてくれないか。



「あのな及川、それは」

「いや、うん、俺は別に……松つんが少女漫画を読んで、いや、持っていたとしても引いたりしないからね、松つんが少女漫画好きだとしても俺は松つんと友達を辞めたりはしないから!安心してね!」


ぎゅっと少女漫画を胸に抱いた及川は俺にそう言って来た、やはりというか及川は思い違いをしているようだった。






「いや、その漫画……俺のじゃないし」

「え?」

「そもそも俺と及川って友達だっけ?」

「ひどっ!!友達じゃん!それにこの少女漫画、松つんのスポーツバッグから出て来たよ?松つんの持ち物じゃないの?」

「あー、なんかの拍子に間違えて入ったかな、ちなみにそれ俺のじゃなくて葵さんの漫画」

「え、ああ……そうなの?」

「あれ?その漫画、なぁ及川その漫画ちょっと見せて」


花巻が手を伸ばすと、
及川は持っていた少女漫画を花巻に渡した。




「え、マッキーって少女漫画読むの?」

「いや、この漫画どこかで見た事あるなと思ったら松川んちでたまたま読んだ漫画の続きだ。ちょっと続きが気になってたんだよなー」


パラパラと漫画をめくると、
花巻は途中でぴたりと手を止めた。





「あ、この女の子キャラ、及川に超似てるw」

「え?どれ?」

「ほら、この髪の毛くるくるの。しかも男にモテモテの美人らしいぞ、そっくりじゃねーか」

「えー?似てないよ!あ、でもこっちキャラなら岩ちゃんに似てるかな、さっきのモテモテ美少女の幼馴染だって。なんか既視感」

「ホントだ。つーか及川と岩泉が少女漫画に出てるみたいだなwお前ら、最後ちゅーしてるぞwまじうける」

「だーかーらー!全ッ然、俺に似てないってば!」

「……。」


……ちなみに二人が見ている漫画は葵さんが描いた漫画。葵さんはやっぱり及川をモデルに描いたのか、しかも女キャラって。


けどなんでまた恋愛相手が岩泉なのか……。





「でも岩ちゃんは似過ぎ!」

「俺が何だって?」

「おい及川が岩泉にトゥンクしてるぞ」

「ちょっとマッキー、その言い方やめてよ!」


それじゃ俺が岩ちゃんに恋してるみたいじゃん!と及川は花巻に言っていた、葵さんは何を見てこの二人をモデルに漫画を描いたのか分からない。モデルの二人は男だし。





「……。」

「本当だ、及川がくるくるしてる」

「くるくるしてない……。っていうかそれ俺じゃないからね!そっちのキャラなんて岩ちゃんそっくりじゃん!しかもこのキャラ、落ち込んでる女の子の頭をさりげなく頭を撫でるとかなんなのイケメンじゃん!やっぱり全然岩ちゃんに似てない!」

「俺そっくりじゃねーか」

「どこがだよ!」

「(でもそれ、お前らがモデルだから)」




(どうでもいいけど、そろそろバレーしようぜ)
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