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「いやいや、一静君はお留守番でしょ?」
「何で?俺は行っちゃ駄目なの?」
「そりゃ駄目だよ、一静君は呼ばれていないんだから」
「呼ばれてなくても行っていいでしょ?」
「だーめ、すぐ帰ってくるし、待ってて?」
「……。」
「じゃあ行ってきます」
「……やっぱり俺も行く」
「だから駄目だってば補習に呼ばれていない一静君は行かなくていいんだってば!」
朝、補習がある為、私は学校へ向かおうとしていたら部活が休みだという一静君も一緒に行くと言い出してしまった。
そして自宅玄関では、
攻防戦が始まってしまった。
「でも花巻は行くんでしょ?」
「そりゃあ花巻君も補習組だから」
「じゃあ俺も行く」
「じゃあの意味が分からないよ!」
このままでは補習に遅れてしまう為、
一静君を説得するのを諦めて学校へ向かった。
「……それで松川がいんのか」
「何度言っても諦めてくれなかったの」
説得しようと頑張ったんだけど、
私の隣の席には一静君が何故かいる。
補習の教室にいる一静君を見て、
私服姿の花巻君は驚いていた。
しばらくして補習を担当する先生が補習用の課題プリントを持って教室に入って来たが、
先生は補習組ではない一静君が教室にいる事には一切触れずにプリントを置いて出て行ってしまった。
花巻「いや気付けよ先生ッ!」
「ほらチョロいだろ」
にやりと笑う一静君を横目に、私はもう何も言わず課題プリントの問題を解いて行った。
「あークソめんどくせぇ……おい松川、どうせする事なくて暇だろ?俺に答えを教えるか、それとも代わりにこのプリントやるかどっちがいい?」
「花巻の背中を見てる」
「うっぜ!じゃあこの問題教えろ、出来れば答えも」
「y=3x√2」
「さんきゅ!」
「一静君、適当に言っちゃ駄目だよ」
「あ、バレた?」
「おいいいいッ!?おま、松川!適当に言うんじゃねぇよ!書いちまったじゃねぇか!」
そう言って、花巻君は一静君に怒りながら書いた答えを消しゴムで消していた。
「もーいい!松川には頼まねぇよ!自分でやる!」
「最初からそうしろよ」
「ちくしょー、早く終わらせて帰ってやる!あーでも分かんねぇ、松川この問題教えろ!」
「意志弱いな花巻、まぁいいけど」
「仕方ないな」と、席を立って、花巻の隣の席に移動した。問題の解き方を教えると「ふんふん」と花巻はスムーズに問題を解いていた。
花巻に教えていると、ガタッと葵さんが席を立った。どうやら今日の分の課題プリントが終わったらしい。流石葵さん、花巻と違って分からない問題はなかったらしい。
「花巻、俺帰るわ」
「はぁ!?ちょ、あと一問だろ!これも教えてから帰れよ!」
「いやでも、葵さん終わったし」
「お前、ほんっとに葵ちゃん好きなっ!お願い松川さん!この問題教えて下さい!」
「やだ」
「あの、私の事なら気にせずに花巻君を手伝ってあげて一静君」
「……わかった」
「葵ちゃん……ちくしょう良い子だな葵ちゃんは!松川とは大違いだ」
「あ"?」
「すみません松川さん、教えて下さい」
「(なんか一静君って)」
花巻君に対して優しいのか優しくないのかよく分からない。なんていうか、サバサバしてる?
たまに花巻君に冷たいし、あれ?でも私は冷たくされた事ないかも
「全部終わったー! さーんきゅ松川! ごめんな葵ちゃん松川借りちゃって! でもおかげで助かった!」
「ううん、終わって良かったね」
「葵さん、帰ろう」
「二人はこれからデート?相変わらず仲良いな」
「え、いや、デートじゃ……。」
「そ、デートだから邪魔すんなよ花巻」
「へいへい、俺もこの後デートだからな、お互い夏休み楽しもうぜ松川」
じゃあな!と花巻君と生徒玄関で別れた。
デートと言われた私がオロオロしていると、一静君は「デートする?」と、にやりと笑った。
「で、デートの資料が欲しいからっ!」
「じゃあ俺とデートして下さい、葵」
「な、名前……葵って、」
「ほらデートだし、今から映画でも行こうか?見たい映画あるって言ってたでしょ?」
「あの、一静君、手……」
私の左手は、がっしりと一静君の大きな手が握られていた。一静君の手、大きいなぁ。
「え、離さないけど」
「え、いや、離してって言うつもりは」
「そう?じゃあ俺の好きにさせて?」
「……うん」
デートだと言う一静君に、今日一日中、リードされてしまった。一静君はどうしてこうも、大人びているのか。なんだか一静君は余裕があるみたいで、私ばっかりが緊張している気がする。
(繋いだ手から、ドキドキがバレませんように)
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