26
「ただいま」
リビングのソファーで、ボーッとDVDを見ていると部活から一静君が帰ってきた。あ、もうそんな時間かと壁にかかっているアンティークな時計を見た、
補習が終わって、バレー部の見学をしていた私は試合結果も見ずにこっそりと体育館から抜け出してそのまま帰って来てしまった。
「葵さんいつ帰ったの?気がつかなかった」
「あー、うん。練習の邪魔しちゃ悪いかなと思って何も言わずに帰って来ちゃった。ごめんね、おかえりなさい一静君」
ソファーに座る一静君にそう言うと、何故か彼は不機嫌そうな顔をしていた。おや?何か彼の機嫌が悪くなるような事を言ってしまったのだろうか?
「……今度は帰る時は声かけて」
「う、うん。わかった。」
やはり何も言わずに帰ったから少し機嫌が悪いらしい。申し訳ないなぁと思いつつ、ふと体育館で聞こえた女の子達も台詞が脳裏をよぎった。
「一静君って、モテるんだね」
「……どうしたの急に」
「見学に来てた女の子達が一静君の事「大人っぽくてかっこいい」って言ってたから」
「ふーん、でも及川と比べたら俺なんてただの男子高校生だよ」
「……制服似合わないのにね」(ボソッ)
「……。」
「痛い痛い痛いっ!」
小声で言ったのに一静君にはちゃんと聞こえていたようで無言で彼に頬を軽くつねられた。くそう……やっぱり制服似合わない事を気にしてるんだ。
「ご、ごめんなさい」
「ん、」
「あ、そういえば一静君お盆って部活ないよね?」
「ないよ、どうして?」
「お母さんから連絡来て、お盆に母方のおばあちゃんちに親戚みんな集まるらしいの。まぁ毎年お盆はそうなんだけど、今年は一静君も一緒にどうかなって、再婚したから一静君も一応親戚だし?」
「俺も?」
「無理にとは言わないよ、親戚と言っても一静君にとっては全員初対面だから気を使うだろうし、お母さんとお義父さんは挨拶があるから行くみたいだけど」
「……。」
一静君は悩んでいるようだった、
「一静君がもし気まずいようならマンションでお留守番でも良いよ」
「……でも葵さんはお盆の間は居ないんでしょ?」
「うん、仕事は早めに片付けたし。おばあちゃんにも会いたいしね。」
「……じゃあ俺も行く」
「無理してない?」
「してない、叔父さんにも色々と話したかった、というかお礼が言いたかったし、それに葵さんと離れたくない」
「うん?」
「俺も行くから」
「うん、わかった。じゃあお母さんに伝えておくね」
「ちなみにそのお祖母さんの家って遠い?」
「東京だよ」
「東京?」
「うん、お母さんは仕事で宮城に来たんだけど、出身は東京」
「葵さんも東京生まれ?」
「ううん、私はずっと宮城」
「そうだったんだ」
「あ、それでお盆は向こうに泊まりになるから準備お願い」
「わかった」
頷いた一静君とそれから晩御飯をいつも通り一緒に食べて、DVDの続きを一緒に見た。
そういえば一静君とこうして一緒にいるのも慣れて来たなぁ、なんて思った。親戚というか、同居しているからもはや仲の良い兄妹みたいな?でも誕生日は私の方が早いから私がお姉さんかな。
「一静君みたいな弟がいたらお姉さんは嬉しいだろうね」
「……どうしたの急に」
「なんだか私と一静君って兄妹みたいだなぁって思ったから。でも私の方が年齢はお姉さんだし、一静君が弟だったらどうかなって考えてたの」
「……兄妹ねぇ」
「一静君って頼りになるし、一緒に居ても気が楽だし、こうやって一緒に何かしてるのも楽しいし」
「……。」
「ずっと一緒に居れたらなぁ……って、でも流石にずっと一緒は無理か、一静君も大学で県外行くかもしれないし、いつかは結婚とかするだろうし、離れ離れになっちゃうよね」
「まだ先の事は分からない」
「だよねー、私も進路どうしようかな」
「でも」
「ん?」
テレビではなく、私の方を向いた一静君に向き合うと、彼はソファーの上にあった私の手を握った。
「一静君?」
「俺はまだここに居たい、葵さんと一緒に居たい」
「うん、一静君はここに居ていいよ?追い出すような事はしないし」
「葵さんとここに居てもいい?」
「むしろ居て貰わないと困るよ?」
身寄りの居ない一静君を、母親の要望でうちで一応預かってるわけだし、流石に彼を追い出したりはしない。
「……迷惑じゃなければ俺をここに居させて欲しい」
「ぜんっぜん迷惑じゃないよ、一静君が居たいだけここに居ていいからね」
「ありがとう……。」
「!」
握られた手が引かれたかと思えば、
ぎゅうっと抱きしめられた。
「いや、あの、一静君?」
「……ん?」
「恥ずかしいから、離して欲しい、です」
「ねぇ、葵さん」
「うん?」
「兄妹ってさ、こうやって抱き合ったりするのかな?」
「兄妹いないから分からないけど……多分しないんじゃない?」
「俺もそう思う、じゃあ俺達は兄妹みたいとは言わないよね」
「もしかして一静君、私が「兄妹みたい」って言った事……気にしてた?」
「あ、バレた?」
「……。」
「俺は葵さんの事、兄妹だなんて思った事一度もないよ、ちゃんと一人の女の子として接してるつもり」
「……えっと」
どうしていいのか分からずにいると、
一静君は私から離れて行った。
「あの、一静君」
「何?物足りなかった?」
「!?」
再び抱き締めようとする一静君を見て、
思わず体が強張った。
「……そんなに驚かなくても」
「あ、ごめん……。」
「大丈夫、怯えてる葵さんを無理矢理抱き締めたりたりしないから」
「え?抱き締めないの?」
てっきりまた抱き締められるのかと思ってた。
「……。」
「抱き締められるのかと思った」
「……いや、その、ごめん」
「?」
「……。」
(今抱き締めたら押し倒しそう)
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