同居始めました | ナノ 24






「……。」

「……。」



リビングのソファには、葵さんが正座をしている。そしてその隣に座っている俺は返ってきたテストの答案用紙を見て、眉間に皺が寄った。



「葵さん、こんなにテストの点悪かったっけ?」

「いえ、あの……その」


俺が持っているテストの答案用紙の点数は、32点・41点・57点・15点…と赤点だったりそうでなかったりとあるがあまりにも酷い有り様だった。




「なにこの点数」

「あの、今回は締め切りと時期が被ったり……熱を出したりとかであまり勉強が出来なかったと言いますか」

「そうだとしてもこの点数は酷い」

「はい、私もそう思います」

「追試っていつ?」

「来週の火曜日……です」

「あと1週間か」

「あの、ちなみに一静はテストどうだったの?赤点とか」

「俺がテストで赤点を取るように見える?」


ソファに置いていた鞄から自分のテスト答案用紙を葵さんに渡した。テストは全て70点以上は取っていて、格別に頭が良いと言うわけではないが赤点を取る程抜けているわけでもない。


要はちょうど良いラインにいるというわけだ。






「うわぁ、国語92点とか何食べたらこんな点数取れるの」

「いや、葵さんと基本同じもの食べてるけど」

「追試とか……憂鬱だよ、この追試が上手く行かなかったら夏休みに1週間の補習を受けなきゃいけないし!」


正座したまま葵さんはソファーにうずくまった。まぁせっかくの夏休みに補習は嫌らしい。ちなみに俺は部活三昧だけど。





「一静君、べんきょう教えてください……」

「……。」

「なんで嫌そうな顔するの!?」

「いや、俺そんなに教えるの上手く無いし」

「頼ってもいいって言ってくれたのに?」

「……え、今それを言う?」

「一静君は私に、頼って良いって言った」


葵さんは、俺を見上げてそう言ってきた。それはわざとやっているのかどうかわからない。けど俺には効果的だ。というかその目で俺を見るのはやめて欲しい。






「分かった。ちなみに追試はどの教科?」

「数学と英語と化学」

「あれ?葵さんって理数系得意じゃなかった?」

「……得意だけど」


葵さんは点数を見てため息を吐いていた。




「来週の火曜日までに勉強を教えるよ。テスト範囲だけなら1週間でなんとか出来るかもしれない」

「一静君……!」


嬉しそうに涙ぐむ葵さんと来週の追試に向けての勉強会が始まった。俺は部活があるからあまり教えてあげられる時間がなかったが、学校の休み時間とか合間を見つけては葵さんに勉強を教えた。



昼休みには葵さんのクラスに行って、テストに出た問題の解き方を教えてあげた。






「ええ!?葵が教室に男を連れ込んでる!」

「あんたいつの間に彼氏なんか作ったのよ裏切り者ッ!」

「外野がうるさくてごめん」

「……。」


葵さんの教室に行って、一緒に勉強をしていると葵さんの友人らしき女子生徒達が騒いでいた。俺は葵さんの男でも彼氏でもないんだけど。男ってだけでこうも騒がしくなるのか。






「一静君、この問題意味わかんない」

「ああ、これは」


葵さんが問題集に悪戦苦闘していたので解き方を教えていると、ふと視線を感じた。





「……。」

葵さんが問題に集中していたので、チラッと視線が感じる方を見てみると、どこかで見覚えのある男子生徒がそこにいた。確かあれは葵さんと同じクラスの……影川?だっけ?


こっちを睨むように、葵さんと一緒にいる俺の方を見ていた。もしかして影川は葵さんの事が好きなのかもしれない。

俺と葵さんが一緒にいるのがそんなに嫌か?

そんなに俺が邪魔か?





けど俺は葵さんの隣を譲る気はない。







「……。(ふっ)」


こちらをずっと見ていた影川に向かって小さく笑ってみると、驚いた顔をして教室から出て行った。



歯向かってくるのかと思ったけど逃げたのか。







「一静君?」

「ん?」

「なんか周りがうるさくてごめんね、私と一静君が親戚だって知らない子が多いみたいで」

「ああ、だからさっきから凄い見てるのかあの子達」



俺と葵さんは一緒に勉強をしているというだけなのに、葵さんの教室にいる女子生徒達はチラチラとこっちを気にしていた。さっきと同じように女子生徒達に小さく笑ってみると、彼女達は顔を赤くしていた。


あれ、俺の思っていた反応と違う。
(目を逸らされると思っていた)




予鈴が鳴ったのでそろそろ自分の教室に戻ろうと、廊下に出るとばったりと影川という男子生徒に会った。







「なぁ、」

「え?」


まさか声をかけられると思っていなかった。影川に声をかけられ俺は立ち止まった。






「何?」

「お前さ、松川さんの家にいた奴だよな?つーか同い年だったのかよ、年上だと思ってた。同級生ならそう言えよ」

「……。」



あれ?こいつってこんな喋り方だっけ?





「同い年とかマジありえねぇ、しかも同じ青城とか……何なんだよお前、松川さんの何なんだよ」

「何って言われても」

「お前、マジで邪魔」



影川は俺の横を通り過ぎる時に、
小声で俺にそう言った。


振り返ると、
影川は既に教室へと入って行った。







「……。」


不確かだったが、確信に変わった。
アイツは葵さんの事が好きなんだろう。

それと、俺が邪魔なんだろう。
一緒に住んでるし、あの時に煽ったしなぁ。







「(邪魔、ねぇ)」


……悪いけど、そう言われてはいそうですかと引き下がるわけないだろ。俺の方が先に好きになったんだ。




俺からしたら、お前の方が邪魔だよ影川。





「おい松川、お前……眉間に皺寄ってる。あと怖い」

「……。」



教室に戻ろうと廊下を歩いていたら岩泉に眉間の皺を指差された。そんなに怖い顔してたのか。


無意識だった。




「なんかあった?」

「別に何も?」

「いや何もなくてそんな顔するかよ」

「……そんな怖い顔してた?」

「してた。任侠映画に出てきそうな感じだった」

「マジか、気を付ける」

「……おう」

岩泉がちょっと引いているところを見ると、洒落にならないほど俺は怖い顔をしていたらしい。気を付けないと癖になってしまいそうだ。つい葵さんの前で怖い表情になってしまいそうだし。




出来るだけ優しい顔で、にこやかに
そして時折、余裕のある表情を





(……あれ、いつも俺ってどんな顔だっけ)
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