同居始めました | ナノ 23








「復活!!」

あれから病院に行ったり色々あって、三日後にはなんとか葵さんは体調が良くなってこうやって元気な姿で俺の前にいる。





「まさか扁桃腺炎だったとはね。やっぱり健康が一番だよ、もう二度と高熱は出したくない」

「無事に熱が下がってくれて良かったよ、本当に大丈夫?辛いところない?」

「うん、大丈夫っぽい。これからはなるべく疲れは溜めないように自己管理しっかりしないとね。一静君、看病とかその……色々迷惑かけてごめんね」


申し訳なさそうに葵さんは俺に言ってきた。





「迷惑じゃないよ、葵さんが辛そうにしていたら俺は心配だし、熱が全然下がらなかったからすごく不安だった。何かあったら俺を頼ってって言ったでしょ」

「……一静君」

「俺が出来る事は何でもするから、困った事があればすぐ俺に言って、俺を頼って。分かった?」



葵さんの小さな手をしっかりと握ってそう言った。葵さんの為に俺は何だってしたい。俺が出来る事なら。




「わ、わかった」

「うん」


頷いてくれた葵さんとリビングのソファーでしばらく見つめ合ってしまった。葵さんの顔をジッと見つめてみると、体調が悪かったせいかまだ少し顔色が悪い気がする。あと少し痩せた気もする。大丈夫かな?





「葵さん、少し痩せた?」

「え?そうなの?まぁゼリーばっかり食べていたら痩せちゃうかな、そろそろハンバーグとか食べたい」

「じゃあ作ろうか」


葵さんが食べたいと言うのなら俺は喜んで作ろう。ハンバーグを作る為、ソファーから立ち上がって台所へと向かった。俺用の黒いエプロンを付けてハンバーグ作りを始めた。





「葵さん?」

隣を見ると葵さんもエプロンを付けて隣の立っていた。「私も手伝うよ」と言って晩御飯作りを手伝ってくれるようだった。


いつもの日常に戻ってきた。
また二人でずっと暮らしていけたらいいな。












※※※※※※※※※※※※





「松川ってさ、葵ちゃんの事好きなんだろ?」

「は?」


部活中、ボールを上げてサーブを打とうとしたら花巻が急に俺に言ってきた。上げたボールは打たれずに床に転がっていた。というか何故このタイミングでそれを言う。




「なに?何で今それ聞いたの花巻」

「キレんなよ」

「別に怒ってない」

「で?葵ちゃんの事好きなんだろ?ていうか二人は付き合ってんの?いつから付き合ってんの?どこまでヤッた?つーか最後までシた??」

「質問は一つしか受け付けません」

「最後までシた?」

「なんでよりによってそれ聞いた?」

「一番重要だろ」


自信満々に花巻はそう言った。
ていうか俺達の事どういう目で見てんの?





「付き合ってるように見える?」

「見える、え?まだ付き合ってねーの?」

「まだって、どういう意味だ」

「そのまんまの意味、ていうかもうすぐ夏休み入るし、休み中に告って付き合えば?学校休みなんだからずっと一緒にいれるし遊びにも行けるだろ、いいなー、同棲」

「夏休みは部活あるだろ、あと合宿」


バレー部は1週間の強化合宿があるって聞いたし、夏休みは練習ばかりで葵さんとどこかに行ったりとかは無理そうだな。葵さんも夏休みにどこかに行きたいとか言ってなかったし。




「ていうか夏休みの前に期末テストあるだろ。告白とかよりテストの心配しないとな」

「じゃあテスト終わったら告白か?」

「……。」

「なに?怖いの松川?」

葵ちゃんに告白して振られるかもしれないとか思ってんの?安心しろお前ら仲良さそうだしもしかしたら上手くいくかもしれねぇじゃん。





「夏休みが終わったら告白するか考える」

「夏休み終わってからかよ!えー、そんなにのんびりしてていいのか?葵ちゃん取られちゃうぞ?」

「……。」


煽る花巻を無視して、床に転がっていたボールを拾ってサーブの練習をしようとボールを高く上げて強く打った。及川程上手くないけど、サーブの威力は上げておきたい。




「ナイッサー、松川荒れてるねぇ」

「どっかの誰かが煽ってくるからな」

「……へぇ、誰だろうな」

「しらじらしい」

「悪かったって、松川って性格がさばさばしてるからなに考えてるか分かんねぇんだもん。なんつーか一歩手前で冷静になって立ち止まるタイプ?」

「…冷静ならいいだろ、物事をあんまり深く考えないようにしてるだけ。」

「現状に満足してしまうのは松川の悪い癖じゃね?サーブだってこれくらいでいいだろって立ち止まってない?」

「花巻お前怖い」


なんか分析されてるみたいで怖いんだけど。
微妙に当たってる所がまた。









「じゃあ正直に言うけど、俺は葵さんが好きだし、出来れば付き合いたいと思ってる。けど告白する勇気はない、一緒に暮らしてるだけで満足している部分も確かにある。」

「おお、言い切ったな」

「けど本当は葵さんが、及川や他の男とくっ付くのは嫌だし、例え葵さんがそれを望んでいたとしてもやっぱり俺は嫌だし、どんな手を使ってでも別れさせようと考えたりもした」

「怖ぇな、お前」

「そんだけ好きって事、はいもうこの話は終わり」

「終わりかよ、まだ聞きたい事あったんだけど」

「……。」


花巻を無視して、カゴに入っていたボールを取って、再びサーブの練習を始めた。本当は少しバレーに逃げたくなった。葵さんの事を考えるとどこか冷静でいられなくなる。






「松川ー?」

「……。」

「松川さん?」

「……。」

「松川、無視しないでー?」

「……。」

「聞こえてないのぉ?」

「……。」

「おーい」

ひたすら花巻を無視してサーブ練習をしていると、諦めたのか急に俺を呼んでいた声が静かになった。








「……童貞野郎(ボソッ)」

「あ"?」

「きき、聞こえてんじゃん!?」


花巻を見下ろすと、俺に聞こえないと思ったのか花巻は慌てていた。誰が童貞野郎だ?ふざけんな。






「童貞で何が悪い」

「いや、悪くないです。すみません、俺も童貞ですごめんなさい」

「お前らなんの話してんの?つーか松川、花巻離してやれよ」



花巻の胸倉を掴んで見下ろしていると、岩泉が話しかけてきた。仕方なく胸倉を離してやると「松川ごめん」と謝ってきた。




「まぁ、あれだ。俺なりに俺のタイミングで告白するつもりだからあんま触れないでくれ」

「お、おう」


そう言うと花巻はもう一度謝ってきて、練習へと戻って行った。まぁきっと花巻なりに何とかしようと思ったんだろう。他人からしてみれば俺と葵さんの関係はおかしいのだろうか?


ただの親戚……には見えないのか?






(親戚、関係、告白、頭の中をぐるぐる回る)




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