同居始めました | ナノ 21

夏休みが近付いて

生徒達が浮いている今日この頃、







「葵さん、朝だよー」

いつもの時間に部屋から出て来ない葵さんを起こそうと彼女の部屋のドアをノックした。




「?」


ノックしたが、反応がなかった。


そろそろ起きないと学校に遅れてしまう。それに、彼女が寝坊だなんて珍しい葵さんが徹夜で寝ていない時でも、この時間にはいつも一緒に朝ごはんを食べている。





「葵さん?」

もう一度ノックしてみたが、やはり応答がなかった。申し訳なく思いながらドアを開けてみると、電気が点いたままなのか部屋は明るかった。



そして、少し開いたドアの隙間から恐る恐るベッドの方の視線をやると、ベッドに彼女の姿は無かった。



「?」


もしかして……と思い、部屋に入って机の方を見ると、そこには机に突っ伏している彼女の姿があった。もしかしてまた、原稿を描いているうちに寝落ちしたのだろうか?寝る時はベッドで寝ないと、と思いながら彼女に近付いた。





「葵さん、大丈夫?」

「……。」

「葵さん?」

肩をゆっくり揺さぶってみたが、
彼女が起きる気配はなかった。

疲れているのかな?と顔を覗いてみると




「葵さん?」

「……っ」

「!」


酷く汗をかき、辛そうな表情が見えた。
体調が酷く悪そうだ。





「葵さん、起きて、俺が分かる?」

「ん、いっせい……く」

「……ちょっとごめんね」

まさかと思い、彼女の額に手を当てると
思った通り、そこは熱を帯びていた。




「っ……酷い熱」

「……一静、くん」

「何?このままベッドに運ぶから掴まって」

「……。」

「……っしょ」


葵さんの体を抱き上げて、
机からベッドの方まで運んで寝かせた。

布団をかけると、葵さんは何か言いたそうに口を開いて動かしていた。近付いて「何?」と聞いてみると




「原稿……出来たから」

「原稿?」

「机の上、締め切り、間に合った、よ」

「……葵さん」


体調が悪いのに、無理して原稿を描いたばかりにこんなにも体調が悪化して……。



「小湊さん、来たら、渡して」

「わかった、わかったから今は眠って、学校は今日は休むって連絡入れとくから、えっと体温計どこだっけ。」


リビングに置いてある体温計を取りに行って葵さんに渡した。その間に制服のズボンに入っていた携帯を取り出して、学校へと連絡した。風邪で休む事を伝えると、携帯をポケットへとしまった。




「熱どうだった?」

「……ん」

「うわ、38度超えてる、冷やすもの取ってくるから大人しく寝てて」

「……うん」


薬とスポドリと冷却シートを持って葵さんの部屋に戻ると、彼女は大人しく寝ていてくれた。額に冷却シートを貼って、薬を飲んで貰った。


ちなみに俺も学校を休んだ。


流石に高熱を出した同居人を放って学校に行けるはずもない。何より俺が心配だったから。きっと葵さんが心配で授業どころじゃないと思うし。





昼過ぎにもう一度、体温計で葵さんの熱を測ってみるとまだ38度を超えていた。






「……どうしよう」


病院に連れて行くべき?
それとも葵さんの両親に連絡?

こういう時ってどうしたらいいんだろう。






「あ、いっせい君……。」

「葵さん、大丈夫?」

「うん、でもなんかすっごいだるいし……気持ち悪い、ぐるぐるする」

「熱が高いからね。」

「あれ……ていうか、一静君、学校は?もう終わったの?」

「今日は休んだ、高熱の葵さんを放っておけないからね。欲しいものある?」

「……じゃあ、飲み物を」


葵さんが欲しがる飲み物を渡して喉を潤すと、彼女はまた眠りについた。

熱がまだ高いので、しばらくは寝かせておこう……と、眠った葵さんの頭を軽く撫でてから部屋を出た。







夕方くらいの時間になり、晩御飯の準備でもしようかと考えていると、部屋をインターホンが鳴った。こんな時間に誰かと思い玄関の方へ行くと





「「よっ!」」

花巻と岩泉がそこにいた。



「……え?いや、どうした?」

「どうしたって、親友の松川君が風邪で学校を休んだっていうからお見舞いに来たんじゃん」


花巻はそう言って、スポドリやゼリーが入った袋を渡して来た。ていうか俺らって親友だったの?





「つーか、思ったより元気だな松川」

俺を見た岩泉が言った。





「ああ、俺は風邪を引いてないから」

「「は?」」


じゃあなんで学校休んだ?と

花巻が首を傾げた。






「葵さんが高熱出して心配だったから俺も学校を休んだ、とりあえず上がって」


二人をリビングへと案内して、
貰ったものを冷蔵庫の中に入れた。




「じゃあ葵ちゃんが風邪?大丈夫?」

「いや……熱が下がらない。一晩で熱が下がらなかったら明日、葵さんのお母さんが病院に連れて行く事になってる」


葵さんの母親に電話して聞いてみたらそういう事になった。高熱だって伝えたら凄く焦っていたし、やっぱり親は子を心配するんだなって思った。とりあえず今は様子を見て、明日病院に連れて行ってくれるらしい。病院へは俺も一緒に行ってもいいのかな。




「それは心配だな、でも松川が一緒に住んでて良かったじゃん、葵ちゃん一人だったら危なかったんじゃない?」

「確かに……葵さん俺が来るまで一人暮らしだったわけだし」

「マジかよ……。」


リビングに転がっているバレーボールを触っていた岩泉が言った。そういえばいつも岩泉と一緒にいる及川がいない事を聞いてみると、「誘ったら用事があるって言ってた」と岩泉が教えてくれた。




「でも松川が熱出したって知ったら心配で駆け付けるんじゃねぇか?」

「俺?」

「松川葵の方」


同じ名字だとややこしいな、と岩泉が言った。





「なんで及川が駆け付けるんだ?及川と葵さんってそんなに仲良いの?」

「え?いやだって及川は松川の事好きだろ」

「俺?」

「松川葵の方」


いや、そこは分かれよ。と岩泉は言った。





「え」


ていうか、ちょっと待って。
及川は葵さんの事好きなの?
いつから?どういう経緯で?

葵さんが及川に付きまとっていた時?

でもそれはもう済んだ事で、今はそんなに及川に話しかけたり、絡みは少なくなったと思うけど?





「気のせいじゃないの?女に困っていない及川がまさか葵さんの事を好きになるとか」

「そうか?まぁ俺の気のせいかもな、アイツ女には優しいからな」

「……そう」

「拗ねんなよ松川、大丈夫お前の方が葵ちゃんに好かれてるって」

「……。」

「あれ?違うの?」

「……。」

「あ、なんかすまん……。」


地雷踏んだかも……と
花巻は松川から目を逸らした。

だって一緒に住んでたらやる事やってるのかと思うじゃん。手を出したみたいな事を言ってたからてっきりそれなりの関係なのかな…と。






「葵さんの様子見てくる」

少し落ち込んだ様子の松川は立ち上がってリビングから部屋へと行ってしまった。




「……松川すまん」

「色々あんだろ松川にも」

「いやだってどう見ても付き合ってると思うじゃん」

「……いやどう見ても親戚だろ」

「ああ、なるほど」



(いやでもどっちにしろ松川頑張れ)
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