15
最近は雨が多く、梅雨だなぁ……と
思いながら晩御飯の準備をしていると、
玄関の方から音が聞こえた。
部活帰りの一静君かな?と
玄関の方へ行ってみて驚いた。
「あ、葵さん」
「うわぁ、濡れたね」
玄関には、ずぶ濡れの一静君と、
もう一人どこかで見た男の子がいた。
彼もバレー部のジャージを着ているから
きっと彼は一静君の友達だろう。
二人にバスタオルと一静君の着替えを渡して、代わりに二人のジャージを受け取ってまとめて乾燥機に入れた。
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ」
二人はリビングに移動して
私は二人にコーヒーを淹れた。
一体何があったか一静君に聞いてみると、なんでも帰り道で急に降ってきた雨に濡れ、とりあえず近かった松川家に避難してきたらしい
花巻君だという彼に晩御飯食べて行く?と聞くと「頂きます」と返答があったので用意をしに私は再び台所へと向かった。
「……なぁ松川」
「ん?」
「お前、女と同棲してたのかよ」
「同居な」
「あの子ってこの前の彼女だよな?」
「んーん、親戚」
「え、親戚? 彼女じゃねぇの?」
「高校生が彼女と同棲出来ると思いますか花巻さん」
「……無理だねぇ」
「そーゆう事」
「でも一緒に居てよく手を出さないな、普通は女の子と一緒に住んでたら何かしらあるだろ、俺だったら速攻押し倒して食ってる」
「いや、それお前だけだから」
「男子高校生の性欲なめんなよ。つーかホントに何もしてねぇの?」
「……。」
「おい、したのかよ」
「内緒」
そういえばキスしたなぁ、と思いながら葵さんが淹れてくれたコーヒーを飲んだ。
キスしたら俺と葵さんの関係が何かしら変わるかなと思ってたけど、葵さんはいつも通りだった。
変わらずにいつも通り漫画を描いている。期待していただけあって少し凹んだ。
「……全然、雨止まねぇな」
晩御飯を食べ終わり、
外を眺める花巻が呟いた。
「今日一晩は荒れるってニュースで言ってるよ、花巻君今日は泊まって行く?」
「え、いいの?」
「一静君」
「俺の部屋でいいなら」
「泊まる泊まる」
「じゃああとで用意しておくね」
そう言って、お皿を洗おうと
食器をシンクの方へ運んだ。
「葵さん、手伝うよ」
「ありがとう、一静君」
「(お、仲良し)」
そんな二人の様子を花巻はジッと見ていた。
まさか松川が親戚とはいえ女の子と同棲、じゃなくて同居していたとは思わなかった。葵ちゃんという松川の親戚の女の子を見ればそこそこ可愛い子で、いいなぁ……と思いつつ二人を眺める事にした。
どうやら二人は仲良く晩御飯の片付けをしているみたいだけど、
「(松川、なんか嬉しそう)」
松川のあんな嬉しそうな顔は見た事ない。
……いやごめんあるわ、
及川が岩泉に怒られてボール投げられている時、松川ちょっと嬉しそうな顔してた気がする。
あいつニヤニヤ笑ってた気がする。
松川って絶対ドSだろ。
でもなんか羨ましいな、ああいうの。
女の子と一緒に台所立つとか、一緒に片付けしたりとか、松川って女の子にすっげぇ優しいし、いや俺らにも優しい奴だけどさ。
及川には厳しいけど。
まぁ、松川が嬉しそうならいいか。
「(あ、漫画ある。少女漫画? 松川のじゃないよな。流石に少女漫画だったら葵ちゃんのだよな)」
花巻は暇つぶしにリビングにあった少女漫画を読み始めた。読んでみると意外と面白かった。
「花巻?」
「ん?」
「……それ」
「ああ、そこに漫画あったから読んでた」
「お前、少女漫画とか読むんだな」
「普段から読んでるわけじゃねぇけど読んでみると案外面白いもんだな、ほらこのヒロインとかなんとなく松川っぽいし」
「ああ……それ」
葵さんの漫画だ。確か俺をモデルにヒロインを描いたって言ってたような気がする。
「松川、これ続きねぇの?」
「葵さんの部屋にあると思うけど」
「そうなの?じゃあ……。」
「どこへ行くつもり?」
「葵ちゃんの部屋」
「……行かせると思う?」
「松川さん顔怖い、あとTシャツ伸びるって、これ松川のTシャツだけど」
「続きが読みたいなら俺が取ってくるから」
「ふーん?」
「なに」
「いーや、じゃあよろしく」
「?」
「(ただの親戚って間柄じゃあないよなぁ)」
少なくとも松川の方はそう思ってないんじゃねぇの?
(友人Hからみた二人の考察)
[ 16/35 ][*prev] [next#]