13
日曜日、
今日は部活が午前中のみだったので
自宅に帰ると葵さんの姿が無かった。
どこかに出かけたんだろうと、
シャワーを浴びてリビングで雑誌を読んでいると誰かが来たのか部屋の呼び鈴がなった。
「はい」
部屋のインターフォンに話しかけると
聞こえて来たのは男の声だった。
【こんにちは、原稿を取りに伺いました】
「原稿?」
【おや? 男の声?】
「……えっと」
【姫野 ミコト先生はいらっしゃいますか?】
どうしたらいいのか分からなかったので、とりあえず葵さんに連絡してみると「すぐに帰るから、待っててもらって」と返って来たので、言われた通り来客を迎えた。
扉を開けたら眼鏡をかけたイケメンだった。何故か笑顔だったので思わず閉めそうになった。
「……どうぞ」
リビングで待って居て貰い、お茶を出した。葵さんの知り合いらしいこの人はスーツ姿の若い男の人だった。
「ありがとう」
「いえ」
「君が一静君?」
「え? あ、はいそうです」
「へぇ、君が。そっかぁ君が一静君か、ふーん君かぁ。へぇ、そっかー」
「……。」
ジロジロと品定めされているようで
いい気分はしなかった。
この眼鏡の人は一体誰なんだろう。
何故、自分を知っているのか?
葵さんとどういう関係?
「葵ちゃんとどう? 仲良くやってる?」
「はい」
「あの子また栄養失調で倒れたりしてない?」
「……倒れた事があるんですか」
「あはは、前まではしょっちゅうだったよ。漫画描いててよく御飯を食べるの忘れてる子だからねぇ、最近は大丈夫?」
「ちゃんと食べてますよ」
「色々と無理をする子だからね」
「……。」
眼鏡のこの人は、葵さんの事をよく知っているようだった。それこそ、同居人の俺よりもずっと。
「まぁ今は君が一緒に居てくれてるみたいだから安心だよ。これからも葵ちゃんをよろしくね」
「……わかりました」
何故だかお願いされてしまった。
というか貴方は誰なんですか。
「ごめん、お待たせ!」
慌ただしくリビングに入って来たのは葵さんだった。
「おかえり、葵さん」
「ただいま一静君、小湊さんお待たせしてすみません、すぐに持ってきます」
「ごめんね。約束の時間より早く来た俺が悪いから急がせちゃったみたいで」
「?」
葵さんは一度部屋に戻って、
大きい封筒を眼鏡の人に渡していた。
「これが今月分です」
「はい、確かに」
「……葵さん、この人は?」
「ああ、私の担当の小湊さん。たまに原稿を取りに来てくれたりネームのチェックをしてくれたりするの」
「小湊です、よろしく」
「……担当さん?でも葵さんが描いてるのって少女漫画だよね」
「うん」
「少女漫画なら俺に任せてください。ありとあらゆる少女漫画を読み尽くした男、小湊です」
「こう見えても少女漫画の担当さんだよ。見えないけどね」
「……。」
どう見ても見えない。
どこかの会社勤めのサラリーマンにも見えるし。教師のような知的さもあるのに、まさかの少女漫画の担当さんだったとは。
「ところで葵ちゃん、今日は是非君にとお土産を持って来たよ!」
「またですか?今度は何ですか」
「じゃーん!」
自分で効果音を付けて、紙袋から取り出したそれは服のようだった。
「見てこれ!可愛くない!?」
そう言って小湊さんが出したのは
ひらひらしたメイド服だった。
「え、今度はメイド服ですか」
「絶対葵ちゃんに似合うと思って!」
「なんでまたメイド服なんですか?」
「今こういうジャンルの漫画って増えてるでしょ?便乗しようかと思って、あと葵ちゃんに似合うと思って!」
「ふーん?」
メイド服を受け取ってまじまじと
服を見つめる葵さん。
……え、もしかして葵さん
「……葵さん、着るの?」
「うん、小湊さんがこういうの好きでよく着せられるんだよね。漫画のネタになるし、小湊さんにはお世話になってるからお礼もかねて」
「え、いや、でも」
「葵ちゃん是非着てみて!」
「うん、じゃあ着替えてくる」
呼び止める間もなく、メイド服を持って部屋へと消えてた葵さん。
「絶対似合うよねー」
「女子高生に何着させてるんですか」
少し睨むように小湊さんを見ると、
「だって他に着てくれる子いないし」
と、開き直っていた。
「着ましたよ」
「凄い似合うよー葵ちゃん!」
「……。」
メイド服を着て戻ってきた葵さんに抱き付こうとしていたのでスーツの首根っこを掴んでそれを阻止した。
「ぐえっ」
「何やってるんですか」
「ガード固いね……一静君」
「もう着替えていい?」
「いいよ」
「え!?ちょっと!」
「……。」
少し睨むと小湊さんは静かになった。
葵さんはもう少し危機感というものを持って欲しいと思った。
(メイド服は可愛いかったです)
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