同居始めました | ナノ 12




放課後の部活で


今日はいつもより及川を見に来ている
ファンの女の子が多いなって思った。

上を見上げたら、見知った顔を見つけた。同居人の葵さんがそこにいた。


なんで?とか思った。だって今まで見に来る事なんて無かったから。




思わず、葵さんは自分を見に来た、
……なんて浮かれていたけどそれは違った。



彼女は俺の事なんて全然見ていなかった。


彼女の目線の先には及川徹がいた。
葵さんは及川を見に来たんだって分かった





心がギュッと掴まれるように苦しくなった。





俺の事も見て欲しい、そう思った。




確かに及川はイケメンでバレーも上手い。
そんな及川だから女の子も寄ってくる。いつもの光景だったから気にしていなかった。

けどそれが葵さんだったら、葵さんが及川を見ていると知ったらいつもの光景が凄く嫌になった。

好きなバレーも上手くいかなかった。





「(手、振ってる)」

及川に向かって手を振っている姿を見て
どうして俺じゃないんだろう、と思った。俺は葵さんの同居人であって、それ以上にはなれないのか、と悲しくなった。

いつも近くにいるのに
今は凄く葵さんが遠かった。






「(俺も見てよ、葵さん)」


正直、及川には勝てないと思った。
けど、葵さんは俺を見て欲しい。
俺はいつも葵さんを見てる。


ふと見れば、及川も葵さんを見ていた。葵さんを見なくても女の子は他にもいるだろ

柄にも無く、そう思ってしまった。
彼女は俺のものではないのに。







「岩ちゃん!今日はなんか俺のファンの女の子多いと思わない!?モテるって大変だねぇ!」

「うるせー!練習しろボケェ!!」


いいぞ、もっとやれ岩泉。
心の中でそう思った。すまん及川。



「それにお前のファンって決まったわけじゃねェだろボケ」

「俺に向かって手を振ってくれたんだよ!ファンじゃなかったら何なのさ!」

「うぜぇ!」

「助けて松つん!」

「やだ」

「ひどい!」

「誰がモテてるヤツを助けるかよ」

「えー、松つんなんか機嫌悪い?俺のファンの中に好きな女の子でもいたの?」

「……ほんっと、お前の感性鋭くて嫌になるわ。どんだけスペック高いんだよ」

「え!?マジで?当たった?……えっと、なんかごめんね?怒らないで松つん」

「はいはい、怒ってないから。練習しねぇと岩泉がまたボール投げてくるぞ」

「痛い!!」

「……遅かったか」


すまん及川。ありがとう岩泉。
ちょっとスッキリした。


今日は葵さんと一緒に帰ろう。



もし葵さんが及川の事が好きなら

俺なりに応援しよう。
及川はあれでも一応真面目な所あるし
もしかしたら及川と葵さんは付き合ってみればお似合いかもしれないし……。






想像したらやっぱり嫌だった。







部活が終わって、すぐに葵さんを探した。

友人と別れたらしい所を見つけて
すぐに彼女に話しかけた。


やっぱり彼女は及川を見に来ていた。
また心が苦しくなった。
俺の事も見てくれてたらしいけど
及川のついでだと思うと辛かった。


俺らしくないけど……及川に妬いた。




どうしたら葵さんは

俺を見てくれるだろうか




考えたけど答えは出なかった。
彼女と一緒に並んで帰れるだけで、
傷んだ心は少しマシになった。

一緒に住んで、近くに居て
……けどどこか遠い存在の彼女。



触れようと思えば届く距離。
押し倒す事だって出来る距離。
けど……心は決して繋がらない。





「俺、葵さんと一緒に住めて良かった」

「どうしたの急に?」


だって、色んな葵さんが見れるから。
寝起きだって、お風呂上がりだって
こうやって二人でテレビを見たりも出来る。
親戚だからっていう間柄ではあるけれど


葵さんの近くにいれる特権は俺だけ




手を伸ばせば届く距離。
けど決して触れようとは思わない。



彼女にはまだ伝えない。








(貴女が好きです)

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