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私は至って真面目な人間である。
締め切り前でなければ授業中に寝る事もないし遅刻する事もない。
いわば普通の生徒だ。
今日だってちゃんと授業に参加している。
「葵、こっちパス!」
「任せた!」
今日の合同体育でもバスケを頑張った。
他クラスと試合をして、これで運動不足が治ってくれたらなぁと思いながら動いた。正直私は運動神経がすこぶる悪い、足を引っ張っていないか心配だ。
まぁクラスの子のおかげで試合は
うちのクラスの大勝利、うん嬉しい。
「葵さん」
「あ、一静君」
どちらさまかと思えば、同居人の一静君。今日の合同体育は一静君のクラスだったのか。
「お疲れ様、さっき見てたよ」
「えー、バスケ上手くないから恥ずかしいなぁ、男子もバスケでしょ?いいの?抜けてきて」
「さっきの試合で出番は最後、葵さんを見つけたからこっち来ちゃった」
「そっか、一静君のバスケ見たかったなぁ」
残念だなぁと思いながら周りを見るとちらほら男子がこっちの女子の体育に混ざっていた。
まぁもうすぐ授業終わるからみんな自由なんだろう、先生も黙認してるみたいだし。
「一静君、バスケ得意?」
「普通。バスケよりバレーがしたいかな」
「バレー部だもんね」
「あぁ、そういえば今日バレー部が休みになった。一緒に帰ろう」
「いいよー」
一静君と一緒に帰るのは久しぶりだ。
いつもは私が漫画の為に早く帰るか、一静君が部活で遅く帰るかだから、一緒に帰る事は滅多にない。
でもこうやって一緒に帰る約束をしたりするんだから私達の仲は良好だと思う。一緒に暮らしてまだ数ヶ月だけど、まぁなんとかやっていけそうだ。
「葵ー、次の授業さー……ってあら?」
「ん?次の授業?」
一静君と一緒に座って喋っていると同じクラスの友人、ゆーちゃんが話しかけてきた。ちなみに彼女は同じ中学だったので仲は他の子より断然に良い。むしろ悪友だ。
ゆーちゃんは私が少女漫画家で一人で暮らしていた事も知っている。だってたまに手伝いに来てくれていたから。
「……葵、いつの間に彼氏いたの?」
彼女が見つめる視線は私の隣の一静君。
「え?彼氏?いないけど?」
「じゃあ隣の人は?違うクラスだよね?」
「ああ、こちらは今一緒に暮らしている松川一静君。」
「松川一静です」
「え、一緒に?……ん?松川?」
友人の彼女は「おや?」といった表情をした。そして納得したのか「なるほど」と頷いた。
「そういえば前に親戚と一緒に暮らし始めたって言ってたね、彼がその親戚?」
「そうだよー」
「あー、そっかなるほどねぇ、ていうか女の子じゃなかったんだ?妹が欲しいって言ってなかった?」
「うん、妹が欲しかった!」
「……男でごめん」
申し訳なさそうに一静君が謝った。
違う、彼は何も悪くない。
「冗談、一静君で良かったよ」
「葵さん……。」
「何?めっちゃ仲良いじゃん」
「仲良しだよー、一静君凄く優しいし」
「ふーん?」
「……。」
一静君は友人の彼女にジロジロと見られて、居心地が少し悪そうだった。
「でも年頃の男女がひとつ屋根の下って……葵の親がよく許したねぇ」
「許したもなにも母からのお達しだよ」
「えっ」
「最初はまぁ女の子だと思っていたから驚いたけど今はなんとかなってるなぁって感じ、ね?一静君」
一静君の作るご飯は美味しいし、漫画のお手伝いもしてくれるし、一緒に映画もDVDも観てくれるし、休日は遊びに行ったりするし、今日だって一緒に帰ったりするし、もう仲良しだと思う!
「……邪魔になってない?」
「なってないよ?一静君こそ不自由してない?」
「してないよ、むしろ居心地が良い」
「なら良かった!」
「……まぁ二人がいいならいいけど」
親戚という名目がどこまで通用するのか……と、葵の友人は心の中で思った。
「葵さんは、」
「そういえば一静君」
「うん、何?」
「前から思っていたんだけど、どうして「葵さん」って呼ぶの?同い年だから葵って呼んでいいのに」
「……一応お世話になってるから慣れ慣れしくは出来ないよ」
「えー、気楽に呼んでくれていいのに」
「しばらく時間貰っていい?呼び慣れたら呼ぶから……多分」
「うん、私はいつでもいいよー」
私は一静君ともっと仲良くなりたいし、
さん付けじゃやっぱりちょっと
壁がある感じがするから気になるんだよねぇ。
「葵、」
「うん?」
「葵、さん」
「あれ?さん付けになった」
「慣れない…」
どうしよう……と悩む一静君に「ゆっくりでいいから!」と告げて、彼が悩まないようにした。
「一静君?」
「……女の子の名前をさ」
「うん?」
「呼び捨てにした事ないかも」
「あらまぁ」
「……だから慣れない」
「じゃあ私が第一号だね、さぁ呼んでみて一静君」
「……葵?」
「はい、なんですか一静君」
「慣れない」
「がんばって!一静君!」
(私達はとても仲が良いです)
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