6、彼の視線の先にはいつもあの子
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いよいよ学祭が近くなり、

私はお気に入りのカメラを持って学校内を歩いていた。部活動の写真、と言われていくつかの部活の活動写真を撮らせて貰った。


データを見て、うん良い写真が撮れた。と思ったがなんとなく物足りない気がした。少し前の私ならこの写真で納得がいったんだろうけど。




やっぱり何か足りない。











「躍動感じゃない?」

「躍動感?」


部室に戻って、写真をプリントしている茜に聞いてみるとそう答えられた。


いつもは人の少ない写真部室だが、今日は私を含め写真部員の全員が揃っていた。写真部は男子2人に女子が3人。
全員が揃ったついでに学祭の展示について部長の茜が話を進めていた。







「ねぇ葵、運動部ってまだ全部撮ってないでしょ? 試しに行ってみたら?」

「うーん、そうだね」

「じゃあ葵先輩!一緒に体育館に行きませんか! 私どーしても撮りたい先輩がいるんです!」


元気良く手を挙げたのは1年の女の子だった。写真が好きで、とにかく人を撮るのが好きらしい。







「あの、実は私一人じゃ行きにくくて」

「いいよ、じゃあ一緒に体育館に行こうか」

「あの、俺も一緒に良いですか?」



2年の男子部員も手を挙げた。

じゃあ3人で行っておいでーと茜が言ったので、私達3人は首から一眼を下げて体育館に向かった。








「葵先輩のカメラっていつ見ても綺麗なカメラですよねー!」

「白って珍しいですよね」

「ありがとう、お気に入りなんだ」



ニッと笑って後輩に言った。

うちの部員はなかなか放課後に集まらないけど、ちゃんとカメラと写真が好きな後輩達だ。きっと私と茜が卒業してもこの写真部は無くならない。

ずっと生き続ける。







「ところで何部から見に行く? 体育館だと……バスケ部とバレー部と」

「はい! 男子バレー部が良いです!」

「バレー?」

「うちのクラスのバレー部の男子が…あ、影山君っていうんですけど、バレー部に凄く上手い人がいるって言ってたんです! あとその人は噂だと凄いイケメンらしくてっ!!」

「あー、俺もその人知ってるかも。バレー部の体育館っていっつもその人のファンの女の子多いよな」

「そうなんです!だからその人の写真を撮りたいんですけど……私一人じゃ行きにくくて」

「なるほどね……」



男子バレー部か、

そういえば一度も行った事も見た事もないかも。よく徹に練習試合を見に来て欲しいって言われてたっけ……結局一回も行かなかったけど。私が応援しなくても、代わりにたくさんの女の子が徹を応援してくれるでしょ。そう言ったら徹は分かりやすく拗ねてたなぁ。



でもバレー部に行けばきっと岩泉君も居るんだろうなと思い、出来れば行きたくないなぁ……と考えていたが、


後輩達のキラキラと希望に満ちた目には勝てなかった。






「じゃあ、バレー部を撮りに行こうか」



そう言うと、
彼女は嬉しそうに頷いた。




男子バレー部が活動している体育館に着くと、やっぱりというか……徹目当てのファンの女の子がいっぱい居た。

なんで徹のファンか分かるかって?だって「及川せんぱーい!」とか「徹君頑張ってー!」とか黄色い声援がたくさん聞こえるから。



相変わらずの人気だなぁ、徹。



どうやら今日は他校が練習試合に来ているようだ。









「うわ、人いっぱい……やっぱり先輩に一緒に来て貰って良かったです。私一人じゃ無理ですもん、ここにいるファンの人達とか怖そう」

「え。あれ全部ファンの女の子達なの? うわ、やべーな……で? どれが噂のイケメンだ?」

「きっとあの人です! あのニコニコした人!」



彼女の視線の先には、やはりというか……ファンの女の子にニコニコと笑って手を振っている徹がいた。







「(徹……)」

「わぁ! 超イケメンです!」

「えー、アレか? 俺はどっちかというと、その隣にいる人の方が男らしくて良いと思うけどなぁ」

「じゃあ撮影の許可貰ってくるから、二人は此処でちょっと待っててね」

「は、ハイ!」

「ありがとうございます」



後輩二人は葵を見送って、

どこから撮ろうかと悩んでいた。








「葵先輩って凄いですよね、いつも冷静っていうか、この場の空気に全然飲まれてないですもん。私もあんな先輩になりたいです!」

「まず一歩前に出たら? なんで下がるの」

「いや、だってファンの女の子に睨まれそうで」

「でも前に出ないと良い写真が撮れないでしょ」

「う……」










****







練習試合なんて久しぶりで、ああやっぱりバレーっていいなぁと思いながら、1セット目は余裕で勝ち取った。



いつもより少し多いファンの女の子に笑顔で手を振って、そしたら岩ちゃんに怒られて、2セット目も勢いが落ちない磨き上げたサーブを打った。そして、相手のレシーブはボールに追いつけなくてまた1点取った。



うん、今日も調子いい!






さーて、

次はどこにサーブを打とうかなー?









「!」


余裕の表情で相手のコートを見渡していると、見覚えのある女の子を見つけた。自分より色素の薄い長い髪に、自分とそっくりな大きな瞳。



俺が言うのもなんだけど、

ホント綺麗になった女の子。




だってほら
通り過ぎるだけで何人か見てる。










「岩ちゃん」

「あ? 何やってんだ、早くサーブ打てよ」

「葵がいる」

「は?」

「監督のとこ」

「?」



及川に言われ、視線の先を見ると確かにそこに葵がいた。何か話しているようだけど、


ここからじゃ聞こえない。









「は? 何で葵が……」

「さぁ? あ、サーブ打つよ」

「おう!」



とりあえず、今は葵より目の前の敵だ。俺はいつもよりキツイサーブを打った。そのボールは相手のコートに綺麗に決まった。多分、無意識になんとなく葵にかっこいいところを見せようとしてたんだと思う。







「よし!」


葵の方を見ると、彼女は俺の方をちゃんと見ていた。


どうだ! かっこいいだろー!

と言ってやりたかったけど今は残念ながら試合中だ。絶対あとで言おう!あ、ちゃんとファンの女の子に手を振るのを忘れてないよ。


いつも応援ありがとう!





俺って結構、周りが見えるタイプなんだよね。これでもセッターだし、そういうの得意。





だからね、




ねぇ、岩ちゃん



(葵の事、見過ぎだよ)



彼の視線の先にはいつもあの子

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