2、誰にも解けない方程式
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中学生、最後の夏休み



夏休みが終わればそろそろ受験生として忙しくなる、秋の学祭が終わったら部活も引退しようかなーと、誰も居ない写真部の部室で手元にある一眼のマイカメラを触りながら、ふと部室の窓から天気の良い空を見上げた。

中学の生徒はほとんど青葉城西に進学する。それは私も徹も例外では無く、志望校を青葉城西に決めていた。


けど白鳥沢ほどではないにしろ、偏差値がなかなか高いから、ちゃんと受験勉強しなくちゃなーと思いつつも、つい勉強から逃げてしまい、現実逃避したくなってしまった。









「あ、葵やっぱりいた。 どうした? 元気ないじゃん?」


部室に入って来たのは写真部の部長だった、彼女とはもう随分と一緒に居たなぁとしみじみ思う。彼女は黒髪ショートがとても似合い、いつも明るい私の親友である。






「葵、勉強しなくていいの? 夏休みの宿題終わった?」

彼女は鞄を机の上に置きながら、パイプ椅子に座っている私に聞いてきた。





「疲れたから、逃げて来たの」

「そんな事だと思った。せっかくの夏休みなのに受験勉強ばっかだと気疲れしちゃうよね」

「茜はいいの? 勉強しなくて」

「ふっふーん! 私は受験余裕だから」

「なにそれ羨ましい」

「冗談よ、私も家でずっと机に向かってるのに疲れたからここに来たの。私だって勉強から逃げて来たようなもんよ」

「息抜きしたいよねぇ……」

「したいねぇ、あ、ほら夏休み終わったらすぐに学祭あるでしょ? ちょっとは息抜きになるんじゃない?」

「うん、学祭終わったら部活も引退しようかなと思ってたところ」


学祭が終わったら、もうカメラを触る時間も減っちゃうんだろうなぁ。寂しいなぁと思いつつも受験勉強からは逃げれそうもない。こればっかりは仕方ない。







茜としばらく話していると、空が紅くなってきた。お喋りに夢中になってしまい、いつの間にか日が落ちてきたらしい。そろそろ部室を閉めようか、と茜が言ったので鞄を持ち学校の廊下を二人で歩いた。学校内には夏休みでも部活動をしている生徒がちらほら居て、大変だなぁと思いながら通り過ぎた。


何人かに見られた気がするけど……






「相変わらず、凄い見られてんね。葵」

「……はぁ」

「その容姿は得してるのか、損してるのか、にしても有名になったもんだね」

「目立ちたくない」

「無理無理!」

「そんなはっきり言わなくても」

「良いじゃない、うちの学校じゃ有名人だもんね「及川兄妹」って、それにあのイケメン兄貴の妹じゃ見られても仕方ないよ」


生徒玄関を出て、先に行く茜の後をため息をつきながら追いかけた。







「あ」

「茜? どうかした?」

「あれ! 葵がいる、やっほー」

「え、徹?」


外に出てばったり出会ったのは、北川第一の男子バレー部達だった、きっと彼らも今から帰るんだろう。





「葵も今帰り? 一緒に帰ろうよー」


目の前に現れた明るい彼は「及川徹」
同級生の女子曰く、超絶イケメンらしい。それ故に凄くモテるとのこと。





「……。」

「葵、私自転車だからまたね」

「え」


じゃあね、と言って笑顔で手を振って茜は駐輪場へと小走りで行ってしまった。私の困った表情を無視して彼女は居なくなってしまった。





「……。」

「ん?」


別に徹が苦手とかじゃない。

一応、双子の兄だし……家族だし。



私が苦手としているのは彼の隣にいつもいる






「お、葵?」

「……岩泉君」





私は彼が苦手だ。



彼の顔を間近で見ると、私の思考回路が急におかしくなってしまい、他の事に支障が出てきそうだから。無意識に頭の中に岩泉君がいっぱいになってしまう。怖いという感情に近いのかもしれない、けどそれ以上に何故か彼には嫌われたくないと思ってしまう。今までどうやって彼と接していたか忘れてしまいそうになる。


彼を目の前にすると、言葉が上手く出ない。


そんな事を上手く回らない脳内でぐるぐると思っているうちに、彼の事が苦手になってしまった。いつしか幼馴染の彼から距離を置いてしまっていた。




私は彼が苦手だ。









「そういえば、葵はどうして学校に? 部活?」

「うん」


徹の隣で歩きながら、ぞろぞろとバレー部の人達と一緒に帰る事なった。


……と言っても、最終的には帰る方向が一緒の私と徹と岩泉君の三人で並んで帰る事になる。



私の隣には徹、その隣に岩泉君。





「葵は部活いつまで?」

「うーん……とりあえず学祭までかな、写真部はいつ引退するとかそういう決まりないから」

「そっかぁー、部活大変だねぇ」

「徹も練習大変でしょ? 公式大会はまだあるし、受験勉強は大丈夫?」

「誰だと思ってんのサ」

「お前この間、数学のテストで赤点ギリギリだったじゃねぇーか」

「あ、あれはちょうど大会が近かったからっ!」

「……徹」

「大丈夫だって! ちゃんと勉強するし!」



そんな会話をしながら、暗くなった道を歩いた。途中で岩泉君と別れて、私と徹は並んで家に向かった。







「ねぇ、葵」

「何?」

「岩ちゃんと何かあった?」

「……何もないよ」

「はい嘘!」

「なんで」

「だって前より二人が話してるの全然見なくなったし。ていうかなんで「岩泉君」なのさ?昔みたいに呼ばないの?」

「あのね徹、思春期の女の子はそういうものだよ」

「そうなの!?」



うん、徹が単純で良かった。





私だって、昔みたいに
「はじめちゃん」って呼びたいけど

中学生になった今、幼馴染だと言っても流石に男子相手に「ちゃん」付けでは呼べない。きっと彼も嫌がるだろう……と、そう思ってしまう。そういう彼は昔と変わらずに私を「葵」と呼んでるけれど。








「あのね、葵」

「なーに?」

「岩ちゃんが気にしてたよ?」

「……。」

「最近、葵に距離を取られてるんじゃないかって」

「岩泉君は優しいね」

「ねぇ、仲直りしたら?」

「喧嘩はしてないよ」

「そう?」

「うん」


こればっかりは、一方的に私が岩泉君の事を避けている。意味があるからじゃない、彼に嫌われたくないと思っていたらいつの間にか、近付けなくなっていた。





(この気持ちの名前、なんていうんですか?)





誰にも解けない方程式

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