11、クリスマスと幼馴染と勉強と眼鏡───────----‐‐‐ ‐
慌ただしい学祭が終わってから、日が過ぎるのはあっという間だった。
学祭の活動を最後に、私と茜は受験勉強があるため写真部を引退した。後輩にもう少しだけ残って欲しいと言われたが「後はお願い」と告げ、部室の鍵を後輩に渡した。
外に出ればみんなコートとマフラー姿、もう冬がきたらしい。
12月のカレンダーをふと見ればもうすぐクリスマスが近かった。
「ねぇ、葵」
「ん?」
「もうすぐクリスマスだけどさ、クリスマスの予定は? デートとか」
「徹、分かってて聞いてるでしょ」
土曜日の昼、二人は自宅のリビングのローテーブルに向かい合いながら座り、勉強をしていた。葵は数学の問題集を解き、徹は英語のテキストと睨めっこをしていた。
「そもそもデートなんてした事ないよ」
「え? そうなの? 葵ってモテるのに意外、でも誘われるでしょ?」
「興味ないから、断わったよ」
「俺とは間逆だねー」
「ちなみに聞くけど、徹は?」
「クリスマスの予定?」
「うん」
「デート、って言いたいけど流石に受験勉強しないとねー。部活も公式試合残ってるからまだ引退してないし。だから今年のクリスマスはデート無し! 今年は女の子に誘われても行きません」
「意外と真面目だね」
「真面目だよー、俺」
「じゃあ明日は雪かな」
「なんだとう、このガリ勉め」
「なによ、女たらし」
「貧乳」
「タレ目」
「くせっ毛」
「徹もでしょ、性悪」
「泣き虫葵」
「負けず嫌い」
「チビ」
「この眼鏡」
「うっさいガリ勉眼鏡」
「お前ら二人共眼鏡じゃねーか」
徹と中身のない言い合いをしていると、コートを着ている岩泉君が横から現れた。
「呼び鈴鳴らしても出ねーし、玄関の鍵開いてたから勝手に入った、すまん」
「あれー?そうだったんだ」
「?」
あれ? いつの間にピンポン鳴った?
あ、電池切れてるのかも。
「というか、岩ちゃん遅いよー」
「わりぃ」
「……。」
(ところで、何で岩泉君が?)
岩泉君の登場に、ずり落ちそうになった眼鏡を押さえた。
「じゃあ岩ちゃんは、そっち座って」
「おう」
岩泉君は徹に言われ、着ていたコートを脱いで私の隣に座った。どうやら岩泉君も一緒に勉強をするみたいだ。
そういえば昔はよくこうやって一緒に勉強していたなぁ、と思い出した。
でも今は、
「えっと、あ、私お邪魔みたいだから部屋に戻るね……」
「「駄目だ(よ)」」
部屋に行こうと立ち上がると
二人同時に呼び止められた。
隣にいた岩泉君には腕を掴まれた。
「え、何で?」
「この中で一番勉強出来るの葵だろーが」
「そうそう、分かんないとこ教えて貰えないじゃん」
「え、私が教えるの?」
「よろしくねー葵」
「じゃあやるか」
岩泉君も私の腕を離して、持ってきた数学の問題集を開いた。
私は、はぁ……とため息をついて、諦めた。
※※※※※※※※※※
「疲れたよう……」
「(まだ3時間しか経ってないよ徹)」
「バレーしてェなー」
どうやら二人とも勉強に飽きたみたいだった。少しは進んだようだけど、今はもうシャーペンから手を離してしまっている。
「葵、今日の晩御飯は何?」
「え、カレーだけど」
昨日大量に作ったカレーがまだ余っていたと思うけど。
「ねぇ、岩ちゃん晩御飯食べてく? というか泊まっていけば?」
「いいのか?」
岩泉君は何故か隣にいる私の方に向いた。そんな岩泉君に「岩泉君が苦手だから駄目です」だなんて絶対に言えず、
「い、いいよ」
私の口はそう言っていた。
とっくに勉強するのを中断させた二人はソファーに移動しテレビの前に行き、この間録画していたバレーの試合を見ていた。見てたらますますバレーしたくなるんじゃないかな……と思ったが、流石にそれは大丈夫らしい。
かけていた眼鏡を外してケースに入れ、そろそろ晩御飯の支度をしようと髪を結び、台所に向かった。
「そういや、今日親いねぇの?」
「今日と明日は二人とも今遠出してるから居ないよ」
「ふーん」
「何?」
「いや、葵は俺が泊まるの嫌だったんじゃねぇかなって思って」
「葵が?」
「おう」
「前にも言ったけど岩ちゃん別に嫌われてないって」
「……自信ねぇな」
「そんなに簡単に今までの関係が壊れるわけないよ」
「でも男と女は違うんじゃねーか?」
「岩ちゃんが男女論を語るなんてらしくないよーていうか似合わない……痛い!」
「うっせ」
「痛いよ岩ちゃん……」
涙目でそう言っていると、カレーのいい匂いがしてきた。葵が「出来たよ」と声をかけてきたので3人で晩御飯を食べた。
「葵、眼鏡外したのか」
「え?」
岩ちゃんが葵の顔をジロジロと見てたからどうしたのかと思った。
眼鏡?葵が眼鏡外したからってなんなの?
「葵は勉強する時くらいだよね眼鏡かけるの、あと授業中?」
「そこまで視力悪くないけど、たまにね」
「ふーん?」
「?」
「どうしたの岩ちゃん?」
「いや、眼鏡外した方が可愛いなと思って」
「「!」」
岩ちゃん本当にどうしたの??
「岩ちゃん変」
「んだとコラ」
「だ、だって葵の事可愛いって」
「あ? 思った事をそのまま言ったんだけど、なんか変だったか?」
「(そのまま……)」
「ううん、良い思います、岩ちゃんらしくていいと思います」
「?」
岩ちゃん、それ絶対女の子勘違いするから!
岩ちゃんのくせに。
岩ちゃんのくせに。
ああもう、葵が俯いちゃったじゃん!
「そ、そんなの、俺だって眼鏡外したらイケメンだし」
「はいはい、ソーデスネ」
「あれなんか違う!?」
くっそー、岩ちゃんめー
(葵にはもうずっと眼鏡かけてて貰おう! そうしよう!)
クリスマスと幼馴染と勉強と眼鏡
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