3、きらきら世界の住人







「(……やば、眠い)」



高校生活がスタートして、中学の時と同様に俺はなるべく目立たないようにしていた。自己紹介だってシンプルだし、別に名前なんて覚えて貰わなくてもいい。


新しい教室に、知ってる顔もなく。まぁ例え知っていたとしても絶対に話しかけないけど。

そのせいか、クラスの生徒の名前と顔が全然一致しない。誰が誰だっけと思い出すけど、全く分からない。覚える気がないとかじゃない。クラスメイトの名前と顔なんてきっと自然に覚えるだろうと思っているだけ。




あ、でも一人だけ

一番最初に覚えた名前がある。





如月葵



俺の隣の席の、黒髪の女子生徒。


多分だけど、俺がこのクラスで一番最初に喋ったのは彼女だったと思う。


入学式の日は確か夜遅くまでゲームをしていたせいでとにかく眠くて、担任の先生が来るまで少しだけ仮眠をしていた。そして起きたら如月葵が隣に居た。第一印象とかよく覚えてないけど、名前だけは何故か記憶していた。


高校生活も1週間程過ぎて、退屈だったから休み時間に何気なく如月葵を目で追っていた。そして気付いた事がある。


今日もまた如月葵は女友達と話をしているらしい。




綺麗な長い黒髪。
綺麗な顔立ち。
綺麗なスタイル。
綺麗な笑顔。



よくよく見て、気付いたんだ。
如月葵はどこかきらきらしているって事に。他の生徒とは違い、何がと聞かれたら困るけど、どこか違う雰囲気を感じたんだ。きらきらしている彼女を見て、そっと視線をずらした。



きっと彼女は、俺とは違う世界の人。


きらきらしている彼女をもう見る事はなく、いつものスマホに視線を戻していた。スマホの画面には、そこそこメジャーなパズルゲーム。


器用に指を動かしてクリアしていく。単純な仕組みだけどなかなか難しい、けど暇つぶしには十分だ。地味で暗い俺なんかに声をかけるクラスメイトなんて居ない、だけど話しかけて欲しいんなんて思ってない。喋るのって面倒だし、話しかけて来ない方がこうやってゲームに集中が出来るからいい。

暇さえあればすぐにゲームに目を向ける。
それが俺だ。


本当だったら、最近発売された狩りゲームを今すぐにでもやりたいけれど、携帯ゲーム機を学校に持ってきても大丈夫なのか分からないから仕方なくスマホゲームで我慢している。だってもし先生とかに見つかって没収とかされたら最悪だし。




……帰ったらやろう。
全然クエストを進めてないし。





難なくパズルゲームをクリアして、チラッと如月葵の方を見るとまだ楽しそうに友人と話しているようだ。きらきらしてて、表情がころころと変わって、本当に俺とは真逆だなと思った。









「(如月さんて、ゲームとかしなさそう)」




そんな印象を持った。




きっとああいうきらきらした世界の人は、人気モデルが表紙のファッション雑誌を友達と一緒に読んだり、部屋で俺が知らない洋楽を聴いていたり、休日はきっとお洒落なカフェで友達や彼氏なんかとおしゃべりしたり、とにかく華やかなイメージ。


……如月さんもそういうのが好きなんだろうな、そっちの方が絶対似合うだろうし。







如月さんが携帯ゲーム機とか持ってたら……



ああ無理、絶対しなさそう。



……ていうか、如月さんてさっきから男子にすごい見られてる気がする。「美人」「可愛い」「告白したい」そんな単語が嫌でもちらほら俺の耳にも聞こえてきた。でも俺もそう思う(告白以外)から間違ってはいなけれど、なんか如月さんって大変だな……と思った。




まぁ、俺には関係ない。
きっと俺と彼女が関わる事はない。

だって別の種類の人間だし。

俺って、きらきら世界の住人じゃないし。






「(あ、入部届の紙……出すの忘れてた)」


あれだけ忘れるなって言われてたのに、すっかり忘れていた。あー……クロにまた怒られるかも。





……ま、明日でいいや。







(あ、如月さんため息ついてる)
(眠そう。寝るかな?)
(ペンがくるくる回ってる。器用だ。)
(なんか俺、如月さんばっかり見てる)




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