29








合宿も後半に近付き、

疲れも出てきた今日この頃



「うー、暑い……」


長い髪を高く結って、汗をかきながら転がっているボールを拾っていた。途中、ボールが当たりそうになったがなんとか避けた。よく避けたよ私、運動神経悪いのに凄いよ私。でも次は避けれそうにない、うん、仕方ない。





「…暑い」

「(おや?)」


ふと、体育館の壁に寄りかかっている研磨君を見つけた。暑いのは本当に苦手らしい。私も苦手だけど……あ、でも冬も苦手かも。こたつがあれば平気だけど。こたつに入ってゲームしたい。研磨君、一緒にゲームしてくれるかなぁ。




「研磨君、大丈夫?」

「葵、ゴムある?」

「ゴム?髪ゴム?」

「うん、後ろ髪がうっとおしくて」

「ああ、結ぶの?はい、ゴム」


手首に巻いていた予備の髪ゴムを研磨君に渡すと、後ろ髪をゴムでまとめて結んでいた。




「ありがと、すっきりした」

「うん、涼しそう。にしても今日暑いよね……合宿の疲れも出て来たし、研磨君ちゃんと水分摂ってる?」

「あ、忘れてた」

「じゃあ私取りに行って来るよ」


新しく用意したドリンクを取りに行こうとすると、ぐいっと急に手首を研磨君に掴まれた。



「研磨君?」

「あ、」


しまった。咄嗟に葵の手首を掴んじゃった。どうしよう。えっと、なんで俺葵の手首を?どうしよう何て言おう……何か言った方がいいよね。




「えっと」

「どうしたの?」

「あ、の……」

「うん」

「……。」


どうしよう
どうしよう
どうしよう



何で俺、葵の手首掴んじゃったんだろう……何て言ったら良いんだろう。






ああ、そうだ

「ごめん、つい手首掴んじゃった」でいいや。そう言えばいい、きっと葵も何もなかったかのように「そっか」って言って終わるはず。











「ごめん、つい」

「えっと、私はここにいた方がいいの?」

「え」

「いた方がいいならいるけど、水分補給も大事だよ?私は身をもって体験したからね!」

「あ、その、えと、ごめん……!」

「え、研磨君……!?」


研磨君は私の手首を離して体育館から出て行ってしまった。どうしよう、追いかけた方がいいのかな?

というか…今のは一体。




「どうしたんだろ?」


さっきまで研磨君にぎゅっと掴まれていた手首を見ながら首を傾げた。











※※※※※※※※※※※







「(はぁ……)」


俺なんであんな事しちゃったんだろう。

なんでドリンクを取りに行こうとした葵の手首を咄嗟に掴んじゃったんだろう、俺…どうしちゃったんだ。

あんな事するつもりなんてなかったのに。


あれじゃあまるで俺が葵に執着して、どこにも行って欲しくないと親から離れない子供のわがままと一緒じゃないか。





葵は俺の大事なゲーム友達。
俺と気の合う、数少ないゲーム友達。
葵とゲームするのは楽しい。

葵と俺がもし付き合ったらなんて一度も考えた事もない……いや嘘、考えた事ある。だって俺も男だし、葵はモテるからそういう相手とかいたら友達の俺はどうしようとかしょっちゅう考えたりもする。いや、した。考えた。






「(……はぁ)」



咄嗟に体育館から外へと逃げ出してきてしまった。外は日差しが暑いから、すぐに体育館裏の日陰に隠れるように移動した。


アリが行列を成しているのをしゃがんでジッと見た。俺よりアリの方が動いている気がする。アリは凄いなぁ、なんてボーッとアリの行列を見下ろしていると、誰かが体育館裏に近付いてきた。



「?」


もしかして葵が追いかけてきたのかと思ったけど、体育館裏に来たのは葵ではなく、





「……赤葦?」

「あれ、孤爪?ここにいたんだ。何やってんの?」

「アリ見てる」

「……アリ?」


赤葦は同じようにしゃがんで、研磨が見ているアリの行列を見下ろしていた。






「あ、本当だ。アリがいる」

「……うん。」

「……。」


二人は無言で、アリの行列を見下ろしていた。







「赤葦、練習しなくていいの?」

「あー、うん、逃げてきた。木兎さんの際限のない練習は休憩すらないからね、少し休んだら戻るよ」

「木兎さん、元気だね」

「しょぼくれると面倒だけどね、孤爪はいいの?練習しなくて」

「今は体育館に行きたくない」

「練習に疲れた?」

「そういうわけじゃないけど」

「何かあった?」

「ねぇ赤葦、体育館に……葵いた?」

「如月さん?さぁどうだろう、いたと思うけど、喧嘩でもしたの?」

「してない」

「なんかあった?」

「別に」

「ふーん、でも仲直りはした方が良いと思うよ」

「喧嘩じゃないってば、たぶん」


多分、喧嘩じゃない……はず。
なんていうか、今葵に会うのは凄く恥ずかしい。


どんな顔して会えばいいのか分かんない。
あーもうこのまま家に帰りたい。

帰ってゲームしたい。
あのゲームまだクリアしてないしそろそろダウンロードクエストも配信されるころだろうし、葵と一緒にクエストに行こうかな。






「(って、その葵に今会いたくないんだった……ああもう、ゲームしたいけど、葵と気まずいままも嫌だな)」










30分くらい前に戻りたい。
セーブしたところまで戻りたい。

まぁセーブなんてしていないけど。






(人生もセーブが出来るようになりたい)
(それはそれでつまらない人生になると思うよ)
(……人生超ハードモード)
(孤爪、謝ってきたら?)
(喧嘩してないし、俺が謝る側なの?)




[ 30/31 ]

[*prev] [next#]

[ back ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -